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作品 - 20060102_064_871p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


泉川 1986年

  コントラ


露がついた二重の窓は
水のなかの液晶画面のように
白樺の林を映す
午前7時、灰色の空
国鉄式ディーゼル列車の客室内は
暖かくて、かすかに軽油の匂いがする
靴からはたいた雪が
木の床に滲んでゆく

トーストが焼ける匂いを憶えている
僕が住んでいる工場町の
小さな家のテーブル
六畳の暗がりは遠く
祖父が遺したニス塗りの木箱
三菱鉛筆の工場や
焼け野原だったころのこの街に
続いている

その日もヘリコプターの音
が聞こえていた
校庭の隅の百葉箱には
遠い日付の日誌が入っている
砂利の上に足を伸ばすと
空はひろくて午後の路地は
静まり返っている
開基70周年
プレハブの校舎
鉄製の階段を降りてゆくと
雨のしずくが音をたてる
土曜日の正午
イギリス帰りのあの子は
赤と白の傘をさして
通学路をたどる

泉川、1986年
ガラス戸からは3月の淡い光
がこぼれている
待合室の円筒ストーブ
午前の列車が出てゆくと
駅員たちは切符売り場のカーテンを
おろして姿を消した

厚い氷のプラットホームを
踏みしめ
まっさらな雪の上に
足跡をしるしてゆく
つららの降りた0番ホーム
改札口のガラス戸は
一日三度だけ開かれる
朝8時、午後4時
そして、まだ陽は落ちない
最終の6時

オルゴールが短く鳴ると
列車は雪原のなかに
停車する
粉雪が降り続いている
小さな板張りのホーム
と看板だけの乗降場
はなれた集落では
黒い家々が点のように滲み
防風林が吹雪にかすんでいる

文学極道

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