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作品 - 20051209_717_811p

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熱帯アメリカ

  コントラ

乾いた空気をつたって波の音が聞こえる。真昼の日差しは街をアルミのように白く光らせる。道端の日陰で空を見上げるホームレスの老婆。ダウンタウンの7番街を過ぎると、電車は雑居ビルと人影の真下をとおりぬける。

光がまばゆい車両の内部では、歴史を選ぶことに特別の意味はない。ジャンパーにくるまって宙をみつめるエルサルバドルの少年、手をひざのうえに置いたまま、彫刻のように動かない黒人の男。等間隔につづくレールの継ぎ目の音なかで、ひとびとはまだ夜が暗かった、密林のなかの小さな窓辺を想い出す。

地上は正午をむかえていた。風がつよい日に道を渡る国境の労働者たちは、砂ぼこりに目を細め飛ばされないように新聞をかざす。彼らの手はいつも、褐色の聖母像を握りしめている。ドーム屋根の市場に入ると、フロアはいつも湿っている。赤や黄色のセロファンを透かして陽が差す天井に気化してゆく歌声。汗とガラスのモザイク、遠いインディアスの空。

「熱帯アメリカ」シケイロス 1932年。上空で獲物をさがすアメリカン・イーグル。熱帯雨林の中央で十字架にはりつけられたインディアンは、論争を呼んで塗り潰される。回収できない歴史の余剰。プラカードめがけてぶつかりあうさまざまな腕。電気技術者と女たちは、流れる虹を映す立体壁画のなかで革命の理想を表現する。

吹き抜けの連接部にはEMERGENCY ONLYのサインがゆれていて、通り抜けることができない。OTRO BAILE MAS? (もう一曲ダンスはいかが)壁のポスターが語りかける。電車はまもなく減速して、明るく照らされたプラットホームにすべりこむ。ステンレスの車体に赤いランプが点ると一斉にドアが開く。眠りから覚めた遠い昔、アジア人たちがやわらかい足音で歩いた土地の、固いプラットホーム。銀色に光る長距離エスカレーターは地上へと続いている。

文学極道

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