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作品 - 20051203_622_793p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


柿を採りに行く

  りす

重ね着する理由を 問いかける間もなく
君は白いコルテッツに履きかえる
土間に脱ぎ置いたタイトブーツの空洞に
答えはあるのかもしれない

柿の葉は落ち あかい実だけが落ちあぐね
今年は豊作なのよ という君の
見上げもしない視線には 
黒い幹が 漢字の前触れのように
見えるのかもしれない

マフラーで隠した首筋に棲む
慎重に閉じ込めた台詞が
ボタンを外して胸を開き
乾いた柿の葉のように割れるのは
今日ではないのかもしれない

農協に出しても安いのよ 
梯子を架けながら揺れる腰に
ぶら下がっている手鋏を
慣れた仕草で指に収め
懐かしいはずの上目遣いは
一瞬の交わり残して角度を変え
柿の品定めに逃げてしまう

厚手のスカートを手で押さえながら
久しぶりだな 
弾みの悪い言葉と一緒に
君は梯子に足をかける
押さえてようか と問いかける間もなく
君はするすると梯子を上り
これでいい?
と手鋏で柿を示す

これでいい?
これでいい?
これでいい?

頷けば頷いた数だけ 落ちてくる柿の実

籠が一杯になっても 君はマフラーを外さない
その温度を持ったまま 
汗ばんだ冬を やり過ごすつもりなのだ

これでいい?
これでいい?
これでいい?

頷きが止まらない
食べきれない柿の実を抱えて
冬を越す 人もいる

文学極道

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