墓石も無い墓をふうと見ております
母よ
私には黄泉の道が見えております
四角い石板の下の扉が見えております
そこは隠れんぼをするには狭すぎますねえ
そこに居ます母よ
鬼となった私が捕まえられない母よ
そこに隠れた時を私は見ておりました
斜面から見上げる陽の高いこと
へうと鳴く声が向こうの山から聞こえたこと
観音様の美しさを覚えております
母よ
私には触れることが出来ません
その荒れて透明な皮の手にも
目の回りにいつの間にか増えた皺にも
埃の沈殿する緑色の水の入ったコップにも
砂埃の積もる四角い扉の重しにさえも
雨の音に途切れるスピーカー越しの石焼芋の詩を右耳に
白く濁る黄色の掌を合わせて
無味無情のこの心をさらけ出す
その清々しさを
母よ
貴女に伝えているのです
最新情報
選出作品
作品 - 20051118_372_751p
- [佳] 我が母に - リリィ (2005-11)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
我が母に
リリィ