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作品 - 20051116_330_740p

  • [優]  白い朝 - 黒澤 あや  (2005-11)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


白い朝

  黒澤 あや

ポタージュが冷めるのを待てず
やけどする舌
冷たい朝に

湯気の向こうで
陽の光が磨りガラスにはじく
無邪気なほどきらきらと

関東地方の今朝は今年一番の冷え込み
半袖のニットを着たアナウンサーが言う
冷え込んだこの町の6℃は
北国の積もり始めた雪を溶かすというのに

飲みかけのコップを置いて
もそもそと身支度をはじめる
小さな電気ストーブの前で
猫に邪魔されながら
伝線しないよう素足のまま
あれは
初めてホワイトイルミネーションを見た年の白い朝
灯油が切れていて
ふたりで凍える思いをすることももう、ない

ゆっくりと
この町の温度とポタージュの温度が
平衡になっていく

ストッキングを履き終えて
ひといきにすすった残り
やけどした舌はひりひりとまだ
痛むけれど

時間に背中を押され
パンプスをつっかけたまま
玄関を出る

ああ、それでも
息だけは白い


ふと
髪に絡まったような気がした
雪虫
あの日 銀杏の葉音を鳴らして
そっと髪にふれた人の指先を思い出しながら
地下鉄の階段を下っていく

文学極道

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