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作品 - 20051109_125_718p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


血みどろ臓物

  一条

あたしは、公園の滑り台の上に突っ立っている。中指は半分隠されて、連中の具体的な財産を狙っているバイク野郎は、ヘルメットを違うふうに被って、日差しがあいつらの横に大きな影を作った。長い時間が来ると、あたしの国は、白髪の紳士に骨抜きにされるんだけど、その頃にはとっくに、なんだか新しくて、あたしたちに変わる生き物が、あたしたちを支配しているんだって、あたしのママが言ってた。暴走族はバイクを乗り捨てるし、乗り捨てられたバイクが都市開発のあおりを食ってゴーストタウン化した街の入り口と出口付近で、自主的に衝突してるって話は、都市伝説の一種に過ぎないんだけど、そんなことより、いつの日か、あらゆる利便性があたしたちの個性を追い抜いていく。あたしがここにいる、という確かな実感が、確かな確からしさを無邪気に担保するのは、あたしがここにいる、という実感でさえここじゃないどこかに保管されているということ、に置き換えられてしまっている。あたしは、なんだか、夢中になって、片っ端から与えられた書物のページをめくった、それで、あたしがあなたに与えることが出来るのは、ページがめくられるたびに生起する風の音だけ。そうやってれば、いつかどこかに辿りつくと思ってるの。そうやって、ひたすらページをめくってれば、どこかに保管されているあたしに辿りつくと思ってるの。あたしの脳みそに最新の電極をぶっこんで頂戴。Aの次はB、Bの次はCだから、あたしは、公園の滑り台の上に突っ立っているから。あなたの腕は、まぬけな男みたいで、白髪の紳士が骨抜きにした淑女みたいで、その腕にからまって身動きがとれなくても、ママは、そこらにケチャップをぶちまけて、気の違ったやり方でくちびるに口紅を塗りたくっている、ママは、巡回セールスマンとの乱交の白昼夢にびっしょりだけど。あたしが育った街に、あたしが生まれた面影はない。公園の滑り台の上に突っ立っているあたしは、いつの日か、暴走族になっているの。あたしは誰よりも速い暴走族になって、ストライクを三つ見逃して、いなくなる。あたしが、いなくなっても、あなたはあたしのこと、覚えていてくれる?

文学極道

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