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作品 - 20051022_754_655p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


かえりみち

  りす

ゆるんだ眼差しで 育てられた子供は
しだいに 通学路を 塗り替える
眼にうつる 建築の ちがいの 少しずつ
寝床のありかが 匂わなくなる

鉄屑を積んだ リヤカーについて行く
汚れた手拭いを 首にかけた老人 
振り向いては 諭す
 帰れるところで帰りなさい
やさしく揺れる荷台に はこばれる
たりない くらしの 言葉
 これは 人が乗るもんじゃあ ないよ

雑木林の 枝のさやぎが誘う
行方しれずになる 予兆
戸をたてる音がするたび
求めるように首を回して

細葉の垣根の向こうで
人を呼ぶ声がする
親密に丸められた名前の
遠くまで届く 頼もしさ

踏み慣れない ドブ板の形
はじめての道で吸った空気は
吐いても吐いても
おなかの底で 青く燻っている

陸橋を渡ると よその町になる
 押してくれや
坂道のはじまりで 老人が振り向く
冷たい鉄枠に手をかけ 力を込める
 おう おう いいぞ おう 
嗄れた声が弾んで 夜がどんどん軽くなる

街灯の光に 輪郭を取り戻す 鉄の部品 
たがいには接合しない 断面をぶつけあって 
にぎやかに立ち騒ぐ 濡れたような油の匂い
 
 もういいぞ てっぺんだ

遠ざかるリヤカーを 坂の頂上で見送る
 くだるほうが難しいんだ
残された言葉の 辿りたい手触り
振り向けば もうひとつの くだり

文学極道

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