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作品 - 20051021_728_650p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


アスワン=ハイダム

  コントラ

砂粒の記号は砂漠気候を示していた

油田地帯の真昼
地図帳で見ると
デルタの首都から南下する河は
ダムの南でふた手に
わかれていた

地理の授業は午後4時から
ビルの5階の教室ではじまった
大きな窓からは
観覧車と
弧を描くぺディストリアンデッキ
その上をひとびとが移動してゆくのが
まるで電子のビットのように
ちいさく見えた

青ナイル川/白ナイル川

港湾の排気ガスがのどを
つきさす
学校帰りの遠い舗道
陽のあたらない
切通しのプラットホームで

チャットするたび揺れる
彼女たちのスカート
耳を澄ませると
丘陵地帯の長いトンネルを
抜けてくる電車の轟音が
ずいぶん前から聞こえていた

どこにいるのかはわからない
ただ銀の扉が開くたび
聞こえてくる短いメロディと
フロアを流れてゆく
つややかな電光

ファーストフードの
飽和したゴミ箱
臨海地帯の芝生に3人
僕たちが行き着きたい
どこでもない場所は
ここしかないと
目で合図しあった

たった一人だけで
ぺディストリアンデッキをあるいていた
観覧車の光の輪が燃えて
凍るような12月の風
暗い夜空のドームにはなにもみえなかった

細長いビルの5階の教室で
まぶたの裏にはりつく
蛍光灯の光
白・マイナスの残像
黒板にチョークで記した
アスワン=ハイダム
青ナイルと白ナイルが交差する
ラテライトの大地に

青と白の二色の旗を立てて
薄闇/白粉を塗った少女たち
パゴダの遺跡がある
村の夕暮れに
僕たちを招待してくれる

真昼のつよい光を
ビーズの刺繍の入ったキャップで
目を細めて
写した記念写真がいま
僕の手のなかにある

5階建ての予備校の教室で
いつからか
僕たちは砂粒をコンテナに詰めてはこぶ
港湾の労働者だった

冷たく青い冬の空の下
襟をたて
視界を閉ざすヘルメットから
決して見上げることなく

模試の順位がプリントされた
小さなブックレットを下敷きに
して眠りこんでいた

文学極道

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