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作品 - 20051010_487_605p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


やさしいひとをふみました。

  中村かほり

やさしいひとをふみました。

やさしいひとの
たゆたう精神がつくりだす
いっしゅんのすきをついて
いっしょに落下する

なるべくやわらかい場所を選んで
やさしいひとをふむのです。

痛がる、でしょうかきみは
痛がり、ますよねもちろん
痛む、ようにふむのだから
痛ま、ないと困ります


「にんげんだからいたい?」


やさしいひとの
やわらかい場所をふんだら
やさしいひとが
きのう食べたものや
じょうざい
たばこ
ぎたー
なんかが
あふれてひろがる

痛いよ、
落下したままの格好で
やさしいひとは
言うのです

それでも
私の足は
やさしいひとをふみつける


いたい?
とてもいたい。

「あのね」

にんげんだからいたいのですよ。


やさしいひとをふみました。
土曜日の朝に
月曜日の深夜に

いまとなっては
やわらかい場所は
もうあらかた
ふみおえていた

私の足もとで
あふれるきみ
ひろがるきみ

もしあした
きみが人間でなくなっていたら
きみをふむのを
やめようと思う

きみから
あふれでたもの
ひろがりつづけたものを
捨てに行かなければならない

きみから
あふれでたもの
ひろがりつづけたものが
私を人間だと
気づかせるまえに

文学極道

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