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作品 - 20050922_091_543p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


挟み撃ち

  りす

団地の砂場で アメリカザリガニを見た
子供たちの輪の中で 大きなハサミを
低い空へ 突き上げていた


団地の集金当番が回ってきた
住人たちは ドアの隙間から 腕を突き出し
無言で自治会費を手渡す
そそくさと部屋に引っ込む姿は あの
アメリカザリガニ得意の すばやい後方移動に似ていた

アメリカザリガニの背中が 赤く色づく頃
僕たちの平熱は上がりはじめ  夏が来る
ハサミウチ! を合言葉に
僕たちは 前と後ろに網を仕掛けて 
アメリカザリガニを捕まえるのが 作戦だった

集まったお金を見て
「このお金持って逃げちゃおっか」なんて冗談をいう妻の顔は
「このザリガニ茹でるとおいしいよ」とバケツを覗いていた
母親と似てきたようだ

アメリカザリガニの赤い背中を追いかけて
用水路を辿っていたら 隣の町に来ていた 
僕たちは 重たいバケツをぶら下げて
街灯に光る用水路の 青い筋を頼りに
家に帰った


誰もいない砂場に アメリカザリガニがいた
小さな背中をつまんで 持ち上げてみる
体のわりに大きすぎるハサミが
重そうにたれさがっていた

アメリカザリガニは狭いところが好きだった
水草や岩の間
僕たちも狭いところが好きだった
押入れや納屋の奥

アメリカザリガニを帰す場所がないので
部屋に持ち帰ることにした
妻はおそらく アメリカザリガニを 知らない

文学極道

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