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作品 - 20050907_761_490p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


はばかり

  りす

現代では便器中の排泄物の詳細な観察が可能になり
色艶 形状 サイズを容易に調べることができ
その気になれば写真に収めて持ち歩き 「最近俺に似てきたな」などと
まんざらでもない笑みを浮かべる生活もできるのだが
まだ便所が汲み取り式であった時代 排泄物というものは
肛門から落とした途端 深い暗闇へと消えていくものであり
わたしたちに姿を晒すことなく密かに存在するのものであった
しかしその存在は決してわたしたちの追跡をくらますことはなく
時が経てば大きな柄杓で汲み取られ畑の土に撒かれることで
肥料となり 茄子となり胡瓜となり わたしたちの体の養分になるという
見事な循環の足跡を残していった
もちろん水洗トイレから流された排泄物の行方にしても
下水道を通って下水処理場へという分かりやすい履歴を辿ってはくれるが
まさか下水処理場で待ち伏せするわけにもいかず 水洗レバーを押したら最後
穴に吸い込まれ匿名の存在に変わり果てるのを わたしたちはただ 見守ることしかできない
さらに最近では 望みさえすれば肛門を洗って乾かしてもくれるという厚遇に浴することもでき
不覚にも まるで排泄行為など なかったかのような錯覚を覚えてしまうこともあるのだから
わたしたちと排泄物との断絶は はなはだ深刻であるといえるし あの
汲み取り式トイレの黒い穴に無防備に直面し 不安に震えていた
あの お尻の表情がもう永久に戻ってこないという事実については
もう少し真剣に驚いてみる価値があると思うのだ
記憶を辿ってみれば あの時のお尻の 宙吊りにされたような不安定な姿勢
時おり股下を通り抜ける冷たい風 次第に痺れてくるふくらはぎ
そもそもなぜ こんな不自由な姿勢をしているのかという疑問さえ持たず
ひたすら排泄物を奈落に落とすことだけに集中していたあの瞬間
排泄行為というものが 不安と快感を同時体験するものだという始原へと
わたしたちを導いてくれたあの時を はばかり という名前とともに
もう一度 蘇らせたいと思うのだ

文学極道

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