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作品 - 20050905_724_479p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


十六夜

  雪香

水が割れるのです
いま、
指先の銀の引き潮に
水が割れるのです

うなじを笑い
去ってゆくものたちには薄氷の影の匂い
たちこめてゆきます
たちこめて
ゆくのです

むらさき色の風呂敷包みには水母が群れています
案じてくださる必要などは微塵もありません
病みが染みついているのは寧ろ、あか
舌先ひとつで嗅ぎ分けて
うまく此処まで辿り着いたつもりです

鉄の肌触りに濡れている夕刻が
ながらく凪いでいた岩礁の果てに
そろり、そろりと爪を研いでいるのです
その耳を丁寧に閉じて
みてください

ほら、
指先の青の満ち潮に
雨が誘いをかけています
傘を持たない灯籠はそうして土へと溶けてゆくのです


涙のすべてにやさしき羽を
柏手ひとつで
流れるように
涙のすべてに
やさしき羽を

黄色の小花の表門にて
うつむく瞳を小指で持ち上げます
いま
吹き閉じてゆく
雲の真下で

文学極道

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