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作品 - 20050817_283_400p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


骨格捕り(習作)

  浅井康浩

いつの日からか やわらかな微光にとけこみはじめていたあのみなそこで
みずからの殻を閉じていったあなたの 透きとおっては満ちはじめた繊維質のその稀薄さを 
透過性がそのまま一面に降り散ってゆく青となって 見送っていたような気がした
水質とのどのようなかかわりでさえ あやまった動きとしてくりひろげられてしまうあなたの身体にあって
甲殻類の殻の一片としての 殻の成長、脱皮などにより分裂してゆく微細なものとしてのわたくしの響きを 
あなたに感じ取られることなどできはしないのだけれど。
かすかに残されたあかるさの痕跡に反応しては気泡にくるめて消し去ってしまう
ただそのためだけの存在であるわたくしは
あなたののぞんでやまない内骨格さえかたちづくることなどできはしないのだけれど





甲殻類、甲殻類、
切ないまでに正確に、あなたの甲殻をかたちづくってゆくことだけを
みずからの細胞質の運動に接続されたものにとって
甲殻という形態の痕跡をうずまき状に透かしだしてゆくあなたではなく
形態とその循環性が析出される前段階から消去していってしまうあなたを
記名する物質としての やわらかなむねのふくらみですらもつことはかなわないのだから
わすれちゃってゆくのだけれど
あなたがその先にみすえたままのみずからの肢体そのもの
のもつ内包性のカテゴリーのなかに
ザラザラって硬い甲殻なんてものはふくまれてはいないみたいだから
わたくしたちのもっている被膜性なんかももういらないみたいだから





蜜に包まれてゆくものたちの、そのエッジ、その突起や溝をみていたら
満ちはじめ、やがて消え去ってしまうようなみちすじが
そのさきのはじまりにかすかに、見えてしまった気がしたから
やがてあらわれてくるはずの隠喩としての水域を
そこにいるものすべてに絡み合う蜜の半透明な明るさに浸されてしまう水域を
ほぐれはじめることでなにものでもなくなってしまうような口ぶりで、はじめから語り始めようとしていた
でも いつだって
お互いにより添いながらながれてゆく液体は
拡がることで 触れ合うことで 織り合わさってゆくものだから
いまはただ
水世界/蜜世界というそれだけではまだうすあおいままの世界に身を浸しながら





ときとして、
かなしみのために透きとおってしまう指先があるように、
また、その桃のようにあまく伸びきったつめさきへと潜りこんだあたたかな予感が
とめどないほどの蜜の香りをしたたらせてしまうことがあるように





どこまでも蜜そのもののやわらかさのなかに溶けいってしまっては
しぃん、としたうすあおさにくるまれてしまう
くるまれることで
避けようもなくはじまってしまう中性化にあやかってしまうことの
その気はずかしさにほてっては
頬をそめるほどの微熱でもって蜜との結び目がうるんでしまう





けれども どうしてあなたはそんなにもやわらかに
零れはじめて とけだすばかりで
かなうなら
みずからのなかに血脈をこえた本能を隠し持ちながら
くるおしく繰りかえされてきた連鎖を生きはじめてしまう甲殻類たちへ

文学極道

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