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作品 - 20050524_404_237p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


夫婦乞食

  tomo

外で寝れってか
そんなこと言ってないでしょ
さっ、起きて一緒にたべよっ
32ワットの丸型蛍光灯を被せる笠が異様な大きさで迫ってくる。
透かした枇杷肌の豆電球から零れでる光の気配が淋しい。
きのう退院してきた みり は
放っておくと一日中寝そべっていて
食べるいとなみを休眠させているのだ。
どして..かな
えっ なんていったの
口づけしても濡れることのない みり の唇から這い出す言葉が
吐切れる意識の中で殺されていく。
采々や から届いた無添加の弁当を満面の笑みをうかべてほうばる。
みり の右の頬にある粉瘤が菱形にシェイクして
良人の視界の奥を当てどもなくさまよう。

二匹の種類の違う子犬を長いひもでつないで
少女が一緒に散歩している
赤い線描画のプリントされた白いトートバックがあった。
郵便貯金通帳と銀行預金口座通帳、運転免許証とパンチされた古い
免許証、
一円玉と五円玉が一杯詰まった巾着、湯上りタオルと顔ふきタオル、
糸楊枝四本と印鑑が一本、
じかに畳に寝ていた みり の足元にいつも立ってあった。
みり オレ誰だかわかるか
わかんない
おさむ、みりの旦那さん
さっきからあなたに似たような顔した人達が出はいりしている
そんなことないよ みんな俺 おさむだよ
これ以上なにを解れと言うの 体がうごかなくて具合わるくて寝ている
のに 虐待よ
それからまもなくして みり はいなくなった。

あしびきの山にも路を隔てたわたつみの沖にもおなじ雨が降り
おなじ雪が降りそして又おなじ雨がふった頃
一組の夫婦乞食をありきたりの喧騒が眠っている路上に見かけるよう
になった。
をんなは
片方の布の取っ手が千切れ
赤く滲んだ灰色のトートバックを右手に持ち
日焼けした顔には乳白色にひかりを帯びた粉瘤が碇泊している。
をとこは
伸ばし放題の髪にふつりあいな
まばらな無精髭を生やし
そうも古くはないリュックを背負い
両手には何にも持たず
雨上がりの空のけだるさと後姿から飛んでくる妻の臭いを拾い上げて
いるように見えた。
やがて
こっちのみーずはあーまいぞ
あっちのみーずはにーがいぞ
と、一頻り雨粒が落ちてきて
夫婦乞食は雨霧の中に消えていった。

文学極道

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