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作品 - 20050518_355_228p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


キッチン

  he

玉葱を輪切りにする
右から左へと赤や青のコピーが流れていく
何不自由も無く遊ぶ子どもの声に
輪転機が嫌な音を出して絡み付く
かき氷にかけたドレッシングは活き活きとした
桟のベッドで眠る虻
によく似た虫の死骸が此方を見ている
野良猫がそれを連れて帰った
台所の温度が少し下がった
玉葱が輪切りに為った
それは玉葱ではなくなって
笑わない子供に為った
砂をかき集めるようにして
飛散した靴をまな板の中央に引き戻す
立体感の無い包丁が指から離れない
何時の間にか竿竹のアナウンスが聴覚を占拠する
みみの螺旋階段を上ったり下りたり
まるで孤独な高校生みたいだった
チョコチップクッキーが懐かしい
想い出はそれだけあれば十分埋まった
環のような想い出をくしゃくしゃにみじん切りする
手が痛くなってから我に返った
まな板は玉葱の体液であふれた
まな板は玉葱の痙攣であふれた
目は何度となく刺激される
次の玉葱を冷蔵庫から取り出して
まな板はキッチンペーパーで軽く拭いた
包丁は
少し緊張する
指を切りそうになる
指を切ってもいいやと思う
指を切ってはいけないと思う
親指は大切だ
からではなくて
玉葱のドレスに見惚れていた
何かみとれていた。

文学極道

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