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作品 - 20050304_667_105p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


卓上家族

  みつべえ

はしら時計が正午を打つころ
仏壇の扉をあけて
父さんが帰ってくる
それが正しい日課だから
母さんは、大洪水のさなかにも、また
この世の終わったあとも欠かさずに
蕎麦、茹であげ待っている
「消化によいからね」
赤い塗料の、ところどころ剥げおちた
まるいテーブルの上の、醤油瓶のかげから
這い出てくる妹の声
オッカナクテサ、地上の円周をたどれない
針金細工の、出発の塔の上のひとはけの雲
「おにいちゃん、いないよ」
「おにいちゃんはね」
「銀蝿にさらわれたの」
無数の曖昧な供述が淘汰されて
とおい食卓のへりにあらわれる、まだ
誰も知らない絵を、夢みているような
はてしなく何かを、はぐらかしているような
魚を焼くけむり、線香のけむり
大きな穴のなかへ
しんみりと消えていくさざめき

文学極道

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