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作品 - 20041224_048_8p

  • [佳]  四季 - 最果タヒ  (2004-12)

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四季

  最果タヒ

 嗅覚だけで、空の色を判断することが、なぜこんなにも困難なのだろうか。「ぼくの体の中では、ゆうやけがはじまっている」肌に触れるものが、ぼくの毛先でなければいいと、もう永い事、祈っている。「だから目をあけない」祈っている。

 視界の外でまつげが、揺れているのが朝のはじまり。少し遠くにつちふまずをみつけて、その奥に雨の音をみつける。夕べは窓をしめなかったから、たくさんの妖精が、忍び込んでいるはずだよ。春だ。狂おしいほど春だ。いい音が鳴っている、雨。水が窓際の畳に、さくらの花びら、に似た、冷たい足跡を、残していっている。春だ。

 聞こえている、(ときどきは、きみもしてみたほうがいいよ、すうっといきをはいて、そのままちいさくなっていくんだ、目をとじて、くらやみはいちばんのみかたさ、のみこむのみこむ、体温がひくくなればなるほど、だれかが抱きしめてくれている)、気がする。

 少しずつ忘れ物をする少女が、ぼくの部屋に住んでいる。きのうは左手首を路上に忘れてしまっていた。「雪がふっていたから、いそいで走ったの」ぼくは雨の水でそれを洗う。さくらの香りがして、溶けていく。雪。振り向いて、みつける、少女、笑って、笑ってる。「雪がふっていたから、いそいで、」いい音が鳴っている、雨。ここには、たくさんの妖精が、忍び込んでいるはずだ。

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