暗い穴が
無数に開いている星の上に立って
宇宙に凧を上げていた
足下の穴に
誤って
小石を
落とした時は
ぽちゃん、と
音がするまでに
辺り一面真っ暗になってしまって
僕は道具を片付けて
家に帰るところだった
ぽちゃん、
雨水の音濁る、
漆黒の宇宙に
風を探して
凧が
星の一つに届くようにと
ありったけの糸を
闇へ繰り出した
けれど
右手に握った糸の端には
重さという重さが
全く存在しなかった
凧が上がっているのか
僕が
果てしなく
落ちているのか
伸び切った筈の糸は
するすると
手のひらを
滑り続けている
それもそのはず
糸は
いつのまにか
僕の手のひらから
繰り出されていた
まるで蚕が
糸を吐くように
糸が出尽くしたら
僕はこのまま
宇宙に投げ出されてしまうのだろうか
ハサミだ
左手で
道具箱を
必死に探った
あった
赤い柄のハサミ
僕は
熱を帯びて
出続けている糸を
ハサミで
ぱちんと切った
(落下)
今度は
穴の中に
落ちている
足を踏み外した覚えも無いのに
気の遠くなるような速さ
僕を宇宙へ
引き上げる筈だった糸が
右手の真ん中から
だらしなく垂れている
落ちながら
糸を引いてみた
すると
糸は際限なく出てきた
落ちながら
糸を体中に巻き付けた
少しは
落下の衝撃が
和らぐかもしれない
突然
眠気が襲ってきた
僕は糸をぐるぐるに
巻き付けて
繭玉のようになっていた
この穴は
一番深い穴に違いない
ぽちゃん、
雨水の音濁る、
そういえば
落ちながら
穴に底のある幸福を
少し思い出していた
>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20170330_732_9517p
- イロキセイゴ :
>そういえば
>落ちながら
>穴に底のある幸福を
>少し思い出していた
「穴の底にある幸福」、これは何なのかと考えてみました。この詩では繭玉や、蚕などが出て来ますが、あと「宇宙」ですね、キーターム。宇宙で凧を上げている。凧は春の季語ですが、新年の季語っぽいニュアンスが偽りの様にまつわりついて居る様な気がします。何か深い人知を超えたニュアンスがあるのかもしれません。 ('17/03/31 01:59:56)
- 鷹枕可 :
>凧が上がっているのか
>僕が
>果てしなく
>落ちているのか
此の聯が夙に好ましく写りました。
読み違えであったならば申し訳ございませんけれど、此の詩からは時間概念が取除かれているのですね(冒頭-末尾を除く総てに於いて)。操作をなされていると言っても過言ではなく。
石落ちるつかの間、瞬膜の鎧戸を昇りつ落ちてゆく作中主体より吐露された描写に、暫し戯れさせていただきました。
素直に上手い、と思いました。が。次は「穴に底のある幸福について」及び「穴に底のない不幸せについて」掘り下げた御作を読ませていただけましたならば嬉しく存じます。 ('17/03/31 14:30:28)
- 紅茶猫 :
レスありがとうございます。考えがまとまりましたらレスレスします。すみません。 ('17/04/01 23:52:19)
- 祝儀敷 :
「星の王子様」みたいな雰囲気だ。
舞踏とかいって明後日の方向へ行ってしまっている暗喩ばかりの詩にくらべ、語のひとつひとつが明確に役割を持っているこういう詩は好感が持てる。凧も糸もなにかの象徴なのかもしれないが、それとは別に詩に書かれている様そのもので十分面白い。読み解かなくちゃ価値が出てこない暗喩なんてもう古いですよ。これからはこういう詩のようにまずひと読みしそのままの姿で面白いものこそが評価されるべき。てなわけでこの詩は私は好きです。 ('17/04/02 02:13:30)
- たなべ :
わたしはこの詩が少し冗長に感じました。改行を積極的にしていく形は個人的に一言一言の重みが浮き彫りになる形体だと思っている。そこに、それもそのはず、とかすると、とかのリズムを整える接続詞を多く用いているせいで、密度が薄く感じたのだと思う。
また、おそらく比喩的に用いられているであろう凧や糸、穴の意図するところがわかりにくかった。作者がどのようなことを語りたいのかが不明瞭な印象を受けました。もし語りたいことが明確にあったのであれば、どのような読み手を想定するかによりますが、これほど煙に巻かずとも良かったのでは。
部分では、
ぽちゃん、
雨水の音濁る、
というのが想像を掻き立てられるフレーズで、好きでした。 ('17/04/02 06:46:55)
- すずらん :
紅茶猫さん
Feel it!
何ぞや、というより、どんな感じ、の世界(わたし的には)。
地上にいて様々な係累に掴まれている私たちの感覚を、宇宙に遊ばせたら
kite flyingも、ぽちゃんも、
本来の、或いは、未知の感覚世界を私たちにもたらしてくれる?
童話フェイスの俳諧詩、という感じ。
めっちゃ愉快ですね〜言語世界にEnyaの『My! My! Time Flies!』を開くみたくて。
シリーズとか色々なヴァージョンとか読んでみたいです。
ストーリーの(始まりではなく)【扉】という建て方が、
素敵ですね。
作品のつくる《情景》とその奥に広がる《本質的メタファー》の世界と読み取りにピッタリくるし、
もし《修辞技巧的メタファー》で読みたければそういう読みもOKという感じで、
読み幅、広〜い楽し〜い作品。 ('17/04/02 07:58:50)
- 紅茶猫 :
イロキセイゴさん
この詩は少し前に20時2分さんという作者さんが書いた「宇宙の休み」という詩にインスピレーションをいただいて書いたものです。
イロキさんの解釈では助詞が逆になっておりまして、本文は「穴に底のある幸福」です。穴に底があればいつかは着地するので、永遠に落下するよりはいくらか幸福であるかなという絶望指数の濃淡のようなものです。
「繭玉」「蚕」と宇宙の結びつきは、映画「エイリアン」とか村上春樹の作品から影響を受けたものかもしれません
私は俳句を詠みますが、この作品に関しては全く季語は意識しなかったです。
季節のない星という設定ですが、そこに季語だけ存在するというのも面白いかもしれません。
レスありがとうございました。 ('17/04/02 15:38:04 *3)
- 紅茶猫 :
鷹枕可さん
凧が上がっているのか
僕が
果てしなく
落ちているのか
この連はその後の落下を予兆させる意味を持たせたというのは、あとからのこじつけで、でもここまで書きながら落下の展開へと舵を切ったような気がいたします。
時間もそうですが、無いもの尽くしで数え上げたらきりがないと思います。でも時間のあるなしは、詩にとって大きな意味を持つものですね。
とてもシンプルな舞台装置なので演劇になりそうだなと自分で思ってしまいました。
レスありがとうございました。 ('17/04/02 16:00:56 *1)
- 紅茶猫 :
祝儀敷さん
「星の王子様」番外編といったところでしょうか。大好きな本なので影響は受けていると思います。
そうですねストーリー自体が一つの暗喩なので、ありえない世界をさもあるように書いてみました。
良い評価をいただいて嬉しいです。ありがとうございました。 ('17/04/02 16:21:09)
- 紅茶猫 :
たなべさん
冗長でしたか、かなり言葉を削ったつもりではありましたが。
俳句を詠むので、ついつい無駄な言葉を入れてリズムを整えてしまうのかもしれません。
でも一番煙に巻いた箇所は
ぽちゃん
雨水の音濁る
だったのです。
おっしゃる通り説明しすぎなければ、読み手は想像を掻き立てられると、そこに懸けました。
いささか詭弁めいた返信ですみません。
レスありがとうございました。 ('17/04/02 16:36:54)
- 紅茶猫 :
すずらんさん
レスありがとうございます。本当に感激しております。
「童話フェイスの俳諧詩」なるほど3つの要素を感じていただけたのですね。
これは分かります、私には童話性と俳句がいつもついてまわっているようなのです。
「ストーリーの【扉】という建て方」 何の脈絡もなく異次元空間に入るのは扉を開ける感覚に似ていますね。
開ける人によって見える世界が違う、そんな詩を目指していきたいと思っています。
指摘されていろいろ気付いたことがありました。ありがとうございました。 ('17/04/02 17:04:28)
- 野良猫ニャンコ :
ヒュー、ストン
が抜けてる。
「穴に底のある幸福を」は誤字でなくて?
だとしたら、これはこれで面白い書き方だなと思った。 ('17/04/02 18:48:34)
- 紅茶猫 :
野良猫ニャンコさん
感想ありがとうございました。 ('17/04/05 14:13:45)