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TURU

選出作品 (投稿日時順 / 全2作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


半ズボン 他短詩七編

  TURU


   「字源」


ある日テレビを見ていると
アスペルガーと思わしきとある女性タレントが映っていて
こんなことを言っていた
「人」という字について
こんなことを言っていた
「人」という字はヒトとヒトとがささえあって
できているのではなく
あれは弱者(短いほう)が圧しかかる強者(長いほう)に押しつぶされて
なりたっているのだと
いっしゅんその番組内の空気が凍りついていたのが
とても印象的だった

それはもちろん間違いで
ひとりの人間が脚をひらいて立っているすがたが
字源なのだと
謂われているのだけれど
それはぼくには紛れもない真実のように思われる
真実だからこそ
あの場の空気が凍りついたように思われる

自分の書く詩もこのように
真実で
「人人」を凍りつかせるようなものでありたい、
と、
せつにせつに思うのだ


  「ネイル」


女が尖った長い爪に
変な色のネイルしてて
男がその女を口説くために、
「お、ソレ良いね!」
なんて、
ウソ、
ウソばっかり!

男が女との性行為の最中に 、
「妊娠してもかまわないよ!」だなんて、
断言するけど、
ウソ!
ウソばっかり!

男が女と再婚するために
女の連れ子のことを、
「君と同じくらい愛するよ!」とか、
「実の子のように愛するから!」なんて、
またもや断言するけど、
もちろんウソ!
ウソばっかり!

世のなか、
ウソが多いから生きづらい、
ウソつきは、
ヒットラーのはじまり!


   「祈り」


理不尽な労働のあとの
黄ばんだ腋臭くさいシャツのように

あるいは劣情のあとの
精液の黄ばんだティッシュのように

あるいは決して取ることのできない
白い便器の黄ばみのように

女たちが
思わずその目を逸らす汚物のように

――私の詩よ、
いつもまぎれもない真実であれ


   「容姿」


巨大なトロール族の女王が
棍棒を片手に
こちらに向かって歩いてくる

その口からはヨダレを垂らし
そして舌を出し
その貌はいかにも凶暴そうだ

この人の性格も
その歩んできた人生も
とても凶暴なものなのではないか
と感じてしまう

ついつい見た目で
その人を判断してしまう
ついつい見た目で
その人のすべてを決めつけてしまう


   「排出」


ぷりぷりぷり?あるいはぶりぶりぶり?固体と液体の中間物が排出されるときの擬音表現のひとつとして、すなわち糞を排泄するときの効果音として。人はこれらの言葉を発するとき、その唇と唇の隙間から千切れた小さな糞を放(ひ)り出している。


   「時の果実」


カチ、カチ、カチ・・・、

時の果実を秒針が絶えず喰らう、噛み砕いてゆく、そのわずかに滴り落ちた汁をぼくらの耳が口となって啜るのだ。そのあまい汁を。ぼくらの心臓は脈打つ。
そうして秒針からも我々からも放(ひ)り出された糞は過去である。


   「モジャ公」


「わたしは常にあなたたちの下半身とともにある。


   「半ズボン」


たくさんの秘密を分け合おうよ
魔女のように下卑た笑みをいっぱいに浮かべながら
沸きたつ好奇心に駆られながら
たくさんの楽しいことを

たとえば男子トイレの
鍵がかかった個室のドア
となりの個室の壁の上から
こっそり覗いてみると
それは校長先生だったときのような
思いもがけない楽しさ


「新説アリとキリギリス」、「過労」、「断絶」三編

  TURU

   「新説アリとキリギリス」


とあるあついなつのキセツのこと、キリギリスはなつじゅうバイオリンをひいてうたをう
たいながらすきにいきていました。さとさきのことをかんがえずに、まさにじんせいのな
つをおうかしていました。いっぽうアリはせっせとはたらいてすくないきゅうりょうをせ
っせとかせぎ、ねんきんをはらい、しょうらいのふゆにむけてのじゅんびをしていました。
ほかのアリたちなんにんかカロウシしたり、せいしんをやんだりしてしまいました。それ
にもかかわらずそのアリは、しょうらいかならずみとおしがよくなることをしんじて、は
たらきつづけていたのです。けれどもアリはいくらせっせとはたらいても、たべものはあ
んまりえられずビチクするたくわえもほとんどありませんでした。やがてふゆになってキ
リギリスがきました。ヒンシのじぶんにたべものをわけてほしいというのです。とうぜん
アリは、なつじゅうなまけていたキリギリスを、つめたくあしらっておいかえしました。
けれどもアリは、じつはたべものをわけあたえるほどのたくわえもココロのよゆうもなく、
ヒンシのじょうたいでやっとでくらしていたのです。ねんきんもまさにスズメのなみだの
ほどのごくわずかなガクでした。アリはいま、ストーブをつかうためのねんりょうのない
(せいかくにはとうゆだいをはらえなくてつかえない)、さむざむとしたスのなかでびょ
うしょうにつくのでした。アリは、コクミンホケンにかにゅうしていなかったので、ビョ
ウインにもまんぞくにいけなかったのです。アリは、そのよわったカラダでせきこみなが
らはげしくこうかいするのです。「ああ、どうせこんなにびんぼうでビョウキになるのな
ら、なにもあんなにいっしょうけんめいはたらかなくてもよかった」、と。「もっと、キ
リギリスのようにじぶんのヨッキュウのままに、すきにいきていけばよかった」、と。で
も、とうぜんキリギリスだってこのさむさのなかでトウシしているのですがね。にっちも
さっちもいきません。


   「過労」


助けてください助けてください身体が辛いです身体が痛いですどうか助けてください彼ら
は本来の業務担当外の慣れないことを次々とわたしたちに押しつけます月二百時間にも及
ぶサービス残業をわたし達に押しつけますまるでみずからの成功哲学を押しつけるように
押しつけます彼らは東南アジアに学校を建てることがその償いだと本気で考えているよう
ですどうか助けてください

助けてください助けてください身体が壊れそうです身体が張り裂けそうです彼らはアリと
キリギリスのアリになれとよく言います苦しんだのはお前だけじゃないんだとよく言いま
す人のせいにしては絶対にいけないんだとしょっちゅう言いつづけます蓄えられるだけの
給料も与えられていない若者たちに対してはなんで貯金しないんだとよく言いますそして
自分の部下たちにビルの十階からいますぐ飛び降りてみせろと平然とよく言いますどれだ
けきつく叱っても大丈夫というのが彼らの信頼関係のパロメーターのようですどうか助け
てください

助けてください助けてください助けてください身体が辛いです身体が痛いですもうこれ以
上彼らの城を社会に造らせないでください彼らはどんなに無理なことでも鼻血をだして吐
血するまでやりつづければ必ずできるようになると信じ切っているようです彼らは老人介
護施設と私立学校をつぎつぎと設立してその領土をさらに拡大しようとしているようです
どうかどうか助けてください助けてくださいもうこれ以上わたし達と同じ目に遭う人たち
がいないように


   「断絶」


三十代の父親が
生まれたばかりの自分の息子を
社宅のマンションの一二階の窓から
投げ落とした

覚せい剤が欲しい実母は
再婚相手の男とつるんで
小学生の娘に
売春をさせていた

近所づきあいのほとんどない
ある姉妹の姉は
職探しのため
必死な気持ちで
ハローワークに通いつめた

姉は仕事を見つけられぬままに
脳内血腫
知的障害のある妹は
110番も知らぬまま
極寒の部屋で連鎖的に死に絶えた

妻も子も持てない
年収二百万円以下の収入しか
得られなかった男は
約ひと月以上まえに
とても粗末なアパートで孤独死した

ひと月以上たった後の
ようやくの発見

いつも
そばに横たわっていたのは孤独と断絶
経済的勝者たちに
つねに押し付けられていたものは自己責任論

幸いにも免れることができた者たちは
今夜も
酒場で
素知らぬ顔をしながら
楽し気に酒を飲む

文学極道

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