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田能村

選出作品 (投稿日時順 / 全2作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


ニューヨーク

  田能村

テーブルの上を
雨の美術館がすぎてゆく
画家は椅子に腰掛け
森に浮かぶ雲をながめている

潮の飛沫を浴びながら
蔦が壁を上ってゆく5月
画家の指先から
その輝かしい色彩を失い
朝の雲が風化してゆく

遠くで沈没してゆく船
立ち上がる樹々の緑が肌を刺し
風が鳥の声々と共に空へのぼって行く

泣きながら
蛇を投函する初夏
白い皿に息づく内臓にも
朝はきている
叫びも囁きも
今朝は風と化した

ナイフとフォークを錆び付かせ
食卓のナプキンを揺らし
潮風は海へと戻ってゆく

鰐の闊歩する街
ニューヨーク
人々は鮫の誘惑に抗しきれず
海の滴に濡れ
身をよじらせ宙に浮いている

風と共に
鰐と共に

空駆ける学芸員たち
郷愁の山河を越え
美術館に蝟集する人々に
昼食を供する

部屋の隅々に生い茂る
旺盛な観葉植物

アフリカの仮面が壁を制し
緑から鉄へ 岩からガラスへと連鎖する
憂愁の系列に飽き

樹々を配し
草々を繁茂させ
観客は嬉々として美術館を
前代未聞の花壇に改装する

見える物を消し去り
見えざる物を表しゆく窓

雨に濡れるテニスコートが
葉叢から覗き見え
花々大河を渡り
遠近法にすぺてが整列する

何を問えというのか
車が逆流してゆく高速道路に
遠泳してゆく裸の人々に
何の欲望を欲望せよいうのか

今は
欲望のしこりを踏襲する芝を敷く時

夏が春に滲みだし
秋も冬も結晶化し
点描の中に折り重なる
近代美術館

澄み渡る遠近法
透明度を増す光琳に
海鳴りの文様を架け
画家は芝の細道を行く


真昼の死

  田能村

滝が
コップにほとばしらない
真昼

不意に君は
真鍮のベットの上で
目覚める

すでに
家は
巨大な岩石の群れに包囲され
部屋には無数の樹々が
乱立している

「真昼の風に吹かれ
 樹上に羽ばたく鷺の衝撃に立つ
 君が一瓶の揺れる血であるならば、」

君は眠ったまま
岩を食べ
樹々に
花を咲かしていたのだ

文学極道

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