/始めに線を引きます
「ここはおだいどころ
「ここはわたしのへや
「ここはげんかんね
思いつきのような約束事を
ひとつ ひとつ 確認していくと
なんだか不思議とそう思えてくる
/同じことを何度も繰り返して
小さなテーブルを二人で囲んで
ひとり ひとり どこか遠くを見て
お互いに違う夢を見ている
/ふたりで同じ嘘をつく
泥をこねてお皿の上に盛り付けて
口に運ぶまねをして美味しいねと笑う
君から見えないようにそっと捨てる
「あなた いってらっしゃい
「はやく かえってきてね
「こんやは あなたのすきな たまごやきよ
僕は手を振る君に背を向けたまま
ポケットから一つ飴玉を取り出して
口に含む 甘い
君はたいへんたいへんと呟きながら
お洗濯をしたり 掃除機をかけたり
お人形さんにおっぱいをあげたりして
/たぶんそれは欠落した、君の
舌の上で転がす飴玉はいつまでも溶けずにいて
僕にはそれがずっと気がかりだったはずなのに
気がつけばざらついた舌の感触だけが残っている
「ばいばい
「またあしたあそぼうね
「ばいばい
/どこまでも続かない、日常の風景
いつの間にか生まれていた僕と君の子供は砂場の片隅に埋もれていて
明日にはきっともう名前さえ思い出せない
もしかしたら名前なんて 最初からなかったのかもしれない
/そんな遊びです
最新情報
古月
ままごと
古月
署名
古月
驟雨
壁の絵を外すと窓がある
まだ名前のない誰かの清潔な床に
点々と零れた眠りを辿る
廊下に並んだ額縁の端
署名が目に入る
布をかける
遡行する
中庭の石畳はまばらに濡れ
痩せた子供が根元から折れている
それは昨日の朝に芽吹いたばかりの
けして触れる筈のなかった痛み
ざらついた舌を蟻のように舐める
傾いた光ばかりが壁に凭れ
真新しい日
どこまでも続いていく葬列の先に
赤子は高く掲げられながら
老人を遠くへと連れ去って行く
乾いた赤い土の上に横たわる
たくさんの名も知らぬ人々の群れ
踏みしめられて砕ける骨の音を
墓碑に刻みながら歩く
絵筆を置く