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2008年12月分

月間優良作品 (投稿日時順)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


国道沿い

  寒月

さぁ

身なりをととのえ
姿勢をただし
並みの牛丼をたのむ

国道を
いばりとともに楽団を乗せたトラックが抜ける
朝は早いだけで晴れているのに
ふひ ぶふぁ ぶひぃぃ ぶふぁぁぁ
びぃぼぼ びぃぼぼぼぉー
シャーァー
ついでに豚丼の大盛りもたのむ
流通は死を通り越しもする
それから

割れた唇をなめ
それぞれに陸封されたリアス式の海岸へ
隣は見えないが似たようなものだと
幾世紀にもわたって
牛鮭定食をたのむ
さらに
十五品が続いた

何を食べ 何を食べなかったか
考えきれなく
満ち
ほうけていると
美しい顔をした若い男の
アルバイトが近づき
お代はいかがいたしましょう
とていねいにきく
最初からも今からも何も無い
とていねいに答える
分かりましたとやさしく微笑んで
どこかへ 電話している

さぁ

ぼくは詩人だし
かれも詩人だし
電話の先も たぶん詩人だし
国道沿いだし
ずっと無いし
ようやく
あぶら汗が出はじめ
楽団は悲しいし
一人っきりであった


無題3(六月の海)

  プラスねじ

なんだっけ思いだせない
あたしは便器に顔をうずめて
さっき飲みこんだばかりの
薄暗い花を咲かせてる
六月の海から
大丈夫あいしてるから大丈夫
が床にへばりつくのを
はやく迎えにきてほしい
あたしは便器を抱きしめていたくない

六月の海は
季節のすきまに締め上げられ
浮遊する汚物は耐えがたく
あたしは息をずっと我慢してるから
襟の垢じみたシャツで良いから
肩にかけてほしい
おんなじ曲がリピートまた
大丈夫あいしてるから大丈夫
が安っぽい感傷をほどこしてくれる

一面に散り敷かれた切り花を
蹴り除ける革靴の音に
もうなんでも別にかまわないから
スカートを捲り上げて
犬みたいに後ろから犯してほしい
けれどその手は冷たく
やっぱり六月の海は寒かったんだなと思う
なんだったんだろうあたし
あなたにとって


新宿三丁目で思うこと

  黒沢

ムンクの舌のような月
それには直接
関係ないが
新宿のビル群の向うに
引き伸ばされた塗り絵みたいな夕陽がはり付いている



ホームレスといわれた男
はやりの言葉なら
ワーキングプア
自己責任
といった所か

名前を
持たない
鳥類を思わせる初老の男が
地下鉄出口の
階段のそば
縁石に腰を下ろして
通りを見ている
ぞろぞろ事象が溢れ出す雑多なものの光景を見ている
スタイリッシュな外車なのか
しり軽女なのか
奇蹟なのか
大都市の風が砂っぽく吹くのか

妻がいった
とても不安そうで
空気の動きにもびくびくして
少し
震えていたって



私はいう
かつてインドを旅したころの話

カンガーのそば
巡礼者がふり撒いていたピンクの花びら
黒い足裏が次つぎに踏みつけて
水辺では嗚咽する人もいて
けれども組合の
乞食の少年は
親方に
両手両足を切断されたからだで
ダルマみたいにもの凄く這いよってきて
涎をたらし
言語ではない唸り声を上げながら
ひとりひとりに
金銭をせびる

体温のような熱い
熱い
汚れた河が
その背景で厳かにかがやく

インドのあれが二十年前なら
日本にも中世はあった
一休和尚は
自業自得
見るも汚らわしい
つまり穢多
そういって棒切れを振り回し
気違いみたいに
はげしく打据し続けた
恐らく一生涯かけて



ホームレスが居る
ムンクの舌と
直接
関係のないあの
厳然と集合論的滑らかな手触りとしてある温い夕焼け

堕ちるのか
のぼるのか

のぼるのか
堕ちていくのか



世界の裏側で誰が
何にん死のうが知りようがない

たとえば今生
この地球のうらぶれた路上で
施政者や無為の小市民や
にく親が
どれだけ他人を苛もうが
私には何も分からない

飢餓にもさちの偏在にも
社会システムの人類規学的挫折にもインターネットにも



ホームレスが居た
それは

形而上の想像不安
いってみればムンクの舌などを持ち出してみた
書かれた
書きものの

表記や作者
対象や
比喩のあいだの乖離や肉薄と
まったく無関係な話だ



いま新宿三丁目の地下鉄の出口で
縁石にすわり込んでいたひょろ長い
影のような男が
コンビニ袋を左手に持ちかえ
陽も混沌もない終夜の活動期を目前にして
ビルや立体交差や
ひと混みや信号機の向う
惰性というほかない大都市の化学照明のさなかに
浮きあがるような心細さ
饐えた矜持のなお残るせわしさのまま
吸い込まれていく

しなびた顎鬚にはり付く
無言の履歴
それを参照する外部の話者も与えられず

輪廻転生や
宗教論的裏づけにすら言及されず
どうにもムンクの舌としかいいようがなかった月
なのか
塗り絵の名残であったか
遠のきうすくなる胸板の暗部
だぶだぶのシャツの継ぎめや綻びに
忍ばせたまま



ホームレスでも
ワーキングプアでも
滑稽でも
自己責任でもべつに構わない

そういって私は
妻を
恐らく怖い目で睨みつけたはずだ


(無題)

  DNA



〈ギリギリと舞落ちている真昼のハマユウを右目と左の目のあいだで受け止めて/よ「愛しています すべてが黒い海の表面で反目しあっていた 岸辺の 先端では引き裂かれた無数の花弁たちがもはや浮上することもなく、陽光を薄めつづけて 応答せよ。こちらは一昨日より底冷えする夏、がしなり続けいまだ森という森をグラウンドに描写することにしか興味のないきみの真昼をぼくはハマユウの馨りとともに強奪し、まとめてガソリンを放ってその渦潮の中心部で、凍りついています〉


※ 応答せよ。と命じられたので応答するしかし彼方への手紙への返信とは本来的にすれ違いを演じ続けることを「義務」づけられているのだ


三年前の舗道で朽ちていたハマユウがいま
わたしの鼻先で香っている、燃しつくした
はずの灰のほうから

ざらついた白黒で構成されたあの真昼は恐怖や
酸っぱいクリームを呑込む暇をあたえず
「夏、わたしは殺させない なぜならわたしは 夏、
見つけ出せはしないから 夏、底冷えのする
夏、のひきちぎりそこねた末端。たとえば
きみの耳たぶをわたしはひきちぎりそこねたのに夏、
はいつになればしなり続けるのを止めるのでしょうか、

三年以上も真昼の白黒の繁茂する

グラウンドにはミドリやアオの角の伸びた宝石が息づきはじめ 
真昼の鐘の音が底でしつこく反響し続け(ている 
狂わないのは時の刻みではなくあなたの 頬に刻まれた皺のほうであった/から 
赤子がひとりで、いま真昼の
短い物体を噛み砕いている


時折の笑い声が、そして

  Canopus (角田寿星)



草はらの草の丈が少し低くなった窪地に
テントは立てられて
そのかたわらに
とうもろこしの絵がかいてある木箱
寄り添うように ふたつ
上には座布団が縫いつけられ
厚手の膝掛けが
かわいた風に旗めき
それに向かいあうように
木箱 もうひとつ
8インチのトランジスタテレビが
あたりをおだやかに照らし
司会者の絶え間ないトークに
時折の観衆の笑い声がひびく
つい先ほどまで先住民の老夫婦が
寄り添うように ふたり
木箱に腰をかけ
だまってそれをながめていた
時折の笑い声が
彼らの顔を煌々と照らし
かつて焚火や昔語りやギターが担った役柄を
テレビはじゅうぶんにはたしていた
老夫婦は
崖下の厠にでもいったのだろうか
連れだって
しばらく前に座を外したきり
戻ってこない
あたりは闇夜
テレビはちいさな半径を照らし
膝掛けがかわいた風に飛ばされて
時折の笑い声が
束の間の静寂を
そして


オフィーリア

  黒沢





人に会うのが目的だった。

その日、湧きたつような照り返しのなか、渋谷周辺のデパートの外壁に、オフ
ィーリアのポスターを見かけた。暗い緑を背景にして、よどみに浮かぶ水死人
の似姿。服飾ブランドの意匠らしく、引き伸ばされた絵画のふちに、凝った幾
何学模様のロゴが配置され、このようなものが何の宣伝になるのか、ふいの日
陰へ迷い込むような感覚がした。

数日のち、四ツ谷を経由して銀座へいそぐ。
位置が定かでない交叉点をわたるとき、地下へと沈むコンコースの壁いちめん
に、寸分たがわぬ同じデザインか、或いは何かの展示会であったのか、あの死
美人のモチーフを目にした。



以前のこと、オフィーリアの図像を探したことがある。

ジョン・エヴァレット・ミレィ、ポール・ドラロージュ、アレキサンドル・カ
ヴァネルなど…。
十九世紀の後半に、偏って幻視されたこれらハムレットの作中人物は、どれも
原作からの逸脱がすくなく、今では時代がかった印象だ。

// オフィーリアは、周りのきんぽうげ、いら草、ひな菊、シランなどを集め
て花環をつくり、その花の冠をしだれた枝にかけようとして、枝は運わるく折
れ、花環もろとも流れの上に。すそが拡がり、まるで人魚のように川面の上を
ただよいながら、祈りの歌を口ずさんでいた。//(福田恒存・訳)



空港に着いたとき、いつものように携帯電話が鳴り、受け取ったメモに誘引さ
れるままリンクをたどる。発信者は知人。メモを送り返すと、アポイントメン
トについての話題は次第になおざりとなり、閲覧したテートギャラリーのサイ
トから、仄白いオフィーリアの消息、回路を越えてなお止むことのない、デー
タを呼びだし反芻していた。

広場でラジオが鳴っている。何かの演説のような、お笑いタレントのがなり声
が聞こえる。



霧のような雨がふり始め、いき過ぎる自動車は粒だった水滴に、精確に濡らさ
れている。昼間なのに、ヘッドライトが灯され、細かい連続のすじが、蚊柱の
ようにうごくのが分かる。

世界は、雨だ。
水のような粒子の乱れだ。

成田から虎の門、霞が関周辺、神田からまた恵比寿へ。
とある駅前の広場には、ラジオではなく、巨大な吊り上げテレビジョンがある。

埃っぽい広告画面に、ニュー・リリースの音楽映像がさし込まれ、楽曲は扇情
的であったり、予定調和的であったりして、プロモーションビデオは人びとの
群れの真うえで炎上し、あまたの信号を増幅してよこす。何かがはしる。記憶
は圧し返されていく。白濁した光の揺れ戻しのようなものが挿入され、画面の
枠を、撹拌し続けるひび割れしたサ行の爆音は、べつの意匠へと置き換えられ
ている。雨は小ぶりになる。いずれそれらは止む。

眠りや待望は、縁どりされた吐しゃ物のようなもので、この街も、いま見えて
いる火祭りに似た人びとの行列、都市計画も考えぬかれた商業広告も、オフィ
ーリア、お前のむごさには敵わない。



待ち人がきて、またも話題をなわ抜けしていく。ティー・カップがうち鳴らさ
れ、ロゴスではなくもっと直接的なものを、掘削機のようなものをと議論をか
さねた。ウェイターは歩きさり、違法建築めいた明るい陽光を通して、電飾の
消えた東京タワーの立像が見えてくる。

それでは明日は、歴史の一回性について。



倦怠といっては違う。
たぶん、それは異化され過ぎている。凡例をくみ替え、配列された用語たちが
ふいに、想定していなかったそれぞれの怨嗟や、声の不在を突きつけてくるこ
と。

// 暗く
淵になった川の表

半ば
くちを閉ざし
いろ味のない唇は前後の緑を映すようで
半ば
うわ向いた瞳から
出てくるはずのない言葉をとどめ

水死体は流れていく//

オフィーリア、意味を聞かせてほしい。
斜面の上手には、勿忘草が咲き、下手のくぼ地には、野薔薇やミソハギの群生。
きみが嬰児さながら手くびをひらく、闇のような日陰には、すみれ、芥子、バ
ンジー、撫子などが、かつて花環だった余韻を残し、柔らかく、ときに気がか
りな生々しさで、水を吸いつつ裏むけられていく。



韻律になったその希薄さ、親密で疾しげなふる舞い。時代がかった濃紺のドレ
スと、未知の職人のパッチワーク。終わりなき腐敗…。

私の揺らぎ、オフィーリアよ。


「姥捨山日記」抄

  右肩良久

   (一)

 水の国は風のない海にあります。
 風のない海に波は立たず、鏡のような沈黙が青空と雲を映しています。地上はいつの間にか海につながり、またいつの間にか海と離れます。歩いていく僕の足も、気がつくと踝まで水に浸かっており、気がつくとまた干上がった白い珊瑚礁の上に立っています。
 空には空だけの風があります。流れる雲の影が地表を過ぎていく度に、どこかひやりとした記憶が呼び覚まされ、そしてまたたちまち消えるのです。だからある時の僕には逃れがたい過去があり、ある時の僕には生まれたてのように何もありません。
 遠くには回らない巨大な風車があります。羽根の先端に光がとまると、それは海の何処かで病んでいる人魚にとって、抗い難い誘惑となるでしょう。声を失っても何かを得たい、と彼女は思うはずです。それが何かはわからないまま。
 僕は考えます。希望というものがもしもあるなら、それは淡い緑色をした稚魚のようなものだろう、と。そしてそれは水の国の何処にもいないものなのだ、と。不在が帯びる無色の恐怖も、ここではまだ甘い氷砂糖を含むような感触でしかないのですけれど。

   (二)

 駝鳥の卵を買わなければいけなくなって、籐で編んだ篭の底に紫のビロードを敷いて出かけた。三時頃家を出たが、木靴の先に割れ目が入りかかっているのが気になり、いつもより遅れがちに歩いた。
 紫水晶が所々で剥き出しになった岩山へ登り、峠を下りたところで、夏の風が心持ち冷たさを帯び始めた。日暮れに入ったのだ。日輪は沈んで見あたらない。例の迸るような夕焼けもないのに、空は明るく暮れ残っていた。一群の雲が行く。北氷洋では大きな鯨が今、流れる氷塊を水底から見上げている。僕は純銀でできた雲の連なりの遙か下方に沈み、右手に篭を提げて突っ立っている。雲と僕の間を、すうっと鳥が滑空する。今までに見ない、白色の、暗い光を帯びた鳥影だった。まだ生まれていない駝鳥の子の魂が一散に卵を目指しているのに違いない。と、僕は思った。
 僕は不安だった。これから街の雑踏へ入り、喧噪の中で買い物をし、再びこの場所を通って山道を登る。その時にはもう夜はたっぷりと厚みののった闇をまとい、僕の小さなランタンが、悲鳴を上げて逃げまどう小鬼のように揺れるだろう。
 どんなに想像を巡らしてもだめだ。それはまだ始まってすらいない出来事なのだ。確実にやってくるにも関わらず限りなく遠いことなのである。


愛情

  泉ムジ

海のそばにあるちいさな店で、ピアニストが最後の曲を演奏しはじめると、おたがいの腰
に手をまわした老夫婦が軽快なステップでテーブルのあいだを縫っていく。潮風に傷んで
しまったのか、木製のテーブルはどれも重心がさだまらず老夫婦とともに揺れてしまうか
ら、そのいくつかに置かれていたグラスは、中身をあふれさせたり、床でくだけたりして
いる。けれど、それらをかたづけようとするだれかは、もういない。

演奏が終わりにむかうにつれて、ピアノの鍵盤が低い音から順番に失われていく。

熱っぽい視線をからませていた老夫婦は、いまでは老女だけになり、それでも、まだ伴侶
がそこにいるかのように、虚空をしっかりと抱きながら軽快なステップを踏みつづけるそ
のひと足ごとに、くだけたグラスの破片が重力をわすれて舞う。ピアニストはすこしずつ
上体を右によせ、神経を指さきまでいきとどかせたまま、かつて、波うちぎわで遊んだう
つくしい恋人のことを思い浮かべて、静かに微笑む。

どうしても単調になっていく演奏をおぎなうように、低く海鳴りがきこえてくる。

ドレスのすそを摘んだ老女は素足で水を跳ねあげ、さえぎるものがなにもない、かつての
波うちぎわをじゆうに踊っている。目にうつるすべてがまぶしいくらいに反射しているけ
れど、きっと、朝はまだおとずれないはず、どうか、もうすこしだけ、と、歌っている。
そして、そっとペダルから足が外れ、ほんのいっしゅんだけのぞいた朝のひかりをおおう
高波のなかに、最後の音はさらわれて。


終わらない詩

  丸山雅史

十七歳の時 はじめ君がインターネットの「丸山雅史のホームページ」という個人サイトで偶然見つけた「終わらない詩」は 幾らスクロールして下げ続けても延々と続く詩であった はじめ君は最近 プルーストの「失われた時を求めて」や ジョイスの「ユリシーズ」や 栗本薫の「グイン・サーガ」などを誰よりも早く読破して得意になっていたのだが それら三つの作品よりも ─まるで拡大し続ける宇宙の直径よりも─ 長い詩が存在していたことに大きな衝撃を受けた ─挙げ句の果てにそれはボードレールの「パリの憂鬱」ような散文詩の類だった─ はじめ君はその詩を観て思わず眩暈がした はじめ君は学校から帰ってくるとすぐにパソコンの前に座り 就寝するまで昨日の続きから詩を読むのだった 一年が過ぎ 二年が過ぎた しかし一向にスクロールバーは動かない とうとうはじめ君はその詩を読むのを断念した だがはじめ君の心の中には常に「終わらない詩」のことが引っ掛かっていた ─この詩を書いた人物とは一体何者なのであろうかという最大の疑問が頭から離れなかった─ が結局はじめ君は始めからスクロールをし読み直さなければならなかった

十年が経ち 二十年が経った その間に大学も卒業し 就職もし 高校時代の友人の紹介で女性と結婚もした 子供も三人つくり 一生懸命家族の為に働き 幸せな家庭も築いた ─だがその間も「終わらない詩」のスクロールは微動だにしなかった─ はじめ君は昔のように何度も挫折しかけたことがあった ─だけど自分の人生が終わるまでに読み終わることが不可能であると悟っていても─ 決して読み続けることを止めなかった 自分には文才がないので膨大な語句や多彩な表現能力が身に付くことは無かったが 「終わらない詩」を読み進める速さは歳を重ねるにつれて増していった

そんな様子をはじめ君の三人の子供達は小さい頃からずっと見て育った はじめ君が初めて「終わらない詩」を読み出してから六十年が経ったある日 はじめ君は突然倒れ 脳溢血で亡くなってしまった はじめ君の葬儀の時 久々に顔を合わせた三人の子供達は生前に遺しておいたはじめ君の遺言状を開いて見てみると “「終わらない詩」を父さんの代わりを引き継いで読んでくれ” とあった 三人の子供達は協力して「終わらない詩」を読み継ぐことを固く誓った

はじめ君が「終わらない詩」を読み始めてから百年が経った頃になると はじめ君の三人の子供達のそのまた子供 ─つまりはじめ君の孫─ がまだ「終わらない詩」を読み続けていた それははじめ君の子孫達の伝統となり はじめ君の子孫達だけではなく 時が経つにつれて「終わらない詩」が世界中の何千 何万の学者にも知れ渡るようになると 彼らもまた参加して分担して読み進めた しかしそんな膨大な数と量を掛け合わせて読んでも スクロールバーは百年前と同じように微塵たりとも動かなかった

「終わらない詩」がはじめ君によって読み始められてから千年 一画面の詩を一ブロックとして全世界の人々一人一人に送り 読み終わったら自動的に続きの詩が配信されるようなシステムが開発された 「終わらない詩」を人々が生涯に読む量は既に生まれた瞬間に決まっていたのだが 人々は毎日のように就寝前に欠かさず「終わらない詩」を読み 家族や恋人 兄弟等とその内容を語り合って眠った 人々は「終わらない詩」をいつしか「聖書」ならぬ 「聖詩」と呼ぶようになった 結局「丸山雅史」という人物が本当に実在していたのかということは決して解明されなかったが 世界中 いや 全宇宙中の人間達が唯一共有しているものが 「終わらない詩」であることに 人類はあらゆる差異を超えて強い誇りを感じていた


[開封後はお早めにお召し上がりください。]

  香瀬


[開封後はお早めにお召し上がりください。]



さて、アルマジロを一匹コートのポケットにつっこんで砂場へ行こう。公園の砂場に
は猫の糞が大量にあるから砂漠へ行こう。家から出て3つ歩いたらなんとなく砂漠で
す。持ってきたシャベルで穴を掘っては順々にアルマジロを埋めていく。風が吹いて
空が見えなくなったら砂が降ってくる。真っ白なコートに砂が吹きつけられてポケッ
トのあたりをはたくから、みるみるうちにアルマジロが増えていく。増えた分だけ穴
を掘らなければいけない。ポケットの中には赤茶色の完全な球体にも似たアルマジロ
が大量に丸まっていた。これらをすべて埋めなければいけない。さらさらした砂は海
のように波を吹き上げて、急いで穴を掘らなければならない。砂が当たって痛い。掘
り返した砂が巻き上げられ真っ白なコートに降り注ぐのでコートをはたくとアルマジ
ロがまた増えるからなかなか家に帰れない。


カメレオンに「敬礼ッ!」って娘がはじめたので真似をすると、パパの敬礼はまった
くなってないと娘は言う。ママが炊き立てのご飯の上に鰹節をふりかけている。明日
になると鰹が生えてくるわと言ってジャーのふたをする。敬礼ッ!ほんとにまったく
ぜんぜんなってないわと娘に説教されながら、今年初めてのカメレオンを夢想する。
夢の中で娘の両目がロンドンとパリを同時に見つめながら、あらゆる背景を拒絶した。
「自分の色ってものがあるんだからねッ!」長い舌を器用に操り自己主張をする娘を
見てパパとママはうれしい。続きはジャーの中で夫婦の営みを、と思ったら娘の器用
な長い舌がふたを開いた。二匹の鰹が屹立して「敬礼ッ!」とパパとママの声で叫ん
で、娘が明日になったことに娘は気づく。


別に飛べないわけではないのだよ。ペンギンが重いくちばしをやっと開いて語り始め
た。わたしはおぼろげなテープレコーダーの録音ボタンを押す。幽霊のようにペンギ
ンがため息をつく。でも、誰かが損をしなければいけなくて、それを率先して引き受
けることがそんなに馬鹿なことでしょうか。歯ぎしりした犬を想像して笑うならふふ
ふ。黒と白のタキシードを着こなし、ヘアワックスをたっぷりつけたペンギンは、普
段の愛らしさもどこへやら、めっきり老け込んだ様子。涙目であることを指摘すると、
陸上は海の中より乾燥してますからね、と強がる。着々と海水面が上昇している。干
からびるのを防ぐための嗚咽が黒く白く続々と漏れる。テープレコーダーはためらい
もせずそれらを飲み込み、私は耳をふさいで目を閉じていた。気づくと半透明にペン
ギンが飲み込まれるのを目撃したはずだった。わたしはテープレコーダーを巻き戻し
恭しく再生ボタンを押すと、幽霊のように泣き真似を始めた。


イエネコ

  ゆえづ

僕は倒れやすいけれど折れにくい
世間ではそれを図太いともいうらしい
僕は角じゃなく円
線じゃなく点
この肉球を見れば分かるだろう

君はなかなか倒れないけれど折れやすい
世間ではそれを人間というらしい
君は水平じゃなく垂直
曲線じゃなく直線
それもなぜかって知っているよ
君は
たとえその肉体が果てようとも
立っていなければならなかったからだろう
ああそうともさ
それは僕を守るためにでもあったね

だけれどね
そんな君が倒れるような日は
とても修復の利かない

確実にラストだと思うのだよ
そのときクッション代わりになれるのは
僕しかいないじゃないか
なぜかってそれは
バランスを取ることが僕の特技だからさ
こう
尻尾をうまく使ってね
サーカスの玉乗りのように
空間をグニャリとひん曲げてやるのさ

食っているか寝ているか
そうでなければ毛繕いしているだけだって
のんきなことを言うのじゃないよ
それもこれもれっきとした僕の務めじゃないか
君を包み込むための
にんげんをにんげんたらしめるための
僕は
そのためにやってきた神様の使いなのだからね


そう
君が倒れるような日は
君が倒れるような日は


こんな夢を見ているのだ
窓辺でひなたぼっこしながらね
だけれどまだ内緒だよ
だってこれきっと愛だもの
救いようもなく転んじゃっているのは
僕かもしれないからね

はじめから寝転がっていたけれど


あの日のブタと

  ミドリ


ある日ぼくはコンビニでブタと出会った
黄色と白のストライプの入ったパラソルを握り締め
成人雑誌コーナーでブタは立ち読みをしていた
彼の背中とすれ違うと
どんなに待ったと思う?
ブタは唐突にそういった
立ち止まると彼は横目でぼくを見た
ブタに話しかけられるのはこれが初めてじゃなかった
3年前
バカンスでコルシカ島に行ったとき
地元のブタに話しかけられたことがある

ブタは手にしていた如何わしい雑誌をぼくに手渡し
これ一冊買っとけといった
見も知らぬブタにタメ口をきかれぼくはムッとしたが
あまり相手にしない方がいいと思って
黙って買い物カゴにそいつを入れた
ブタはぼくにきゅっとウインクしたが
はっきりいって 気持ち悪かった

買い物を済ませるとぼくは愛車のアテンザにキーを差し込み
ブルンと捻った
缶コーヒーのプルトップをパキっと起こし
一口飲み干すと
さっきは悪かったな
後部座席を振り返ると
コンビニのブタが縞々のパラソルを差したままぼくの顔をじっと見ている
ブタ!今すぐ降りろっ!
おいおいブタって失礼だな
彼は肩をすくませ 半笑いで応じている
そして短い足をきゅっと組み
後部座席にもたれかかり
これからどこへ行くんだとかトボケたことをいっている
家に帰るんだよ!
なんだ?お前一戸建てか?
つまりそのなんだ?両肩にローンを30年分背負ってるってわけだな
つらい身だなーお前も
怒りを通り越して笑いがこみ上げてきた

ブタ君よ
これが読みたかったんだろ?
ぼくはさっきの如何わしい雑誌を袋から取り出し
後部座席に放り投げてやった
一瞬
ブタの目蓋に暗い影が差したような気がしたが
彼は陽気にこう言い放った
おいおい 何だ?俺がこいつで一人でアレするとでも思ってんのか?
カストロもびっくりだよな
カストロって何だよ
キューバ革命の英雄だよ
お前そんなことも知らんのか?
でもスカトロとかなら知ってんだろ
そんな顔してんもんなお前
いいからブタ!ちょっと降りろや!

ぼくは車のドアをバンと叩きつけ
ブタを引きずり出し
グゥーで2、3発殴ると
ブタはアスファルトの上にだらしなくのめりこんだ
止めの一発に蹴りを入れてやると
ぼくは素早く車に乗り込み
ブルンってエンジンをかけた

なかなかいいパンチだったぜ
お前むかし格闘技とか習ってただろ
振り返るとまたブタが擦り切れた顔から鼻血を出したまま
例のパラソルを立て 後部座席に座ってぼくの顔をじっと見ている

何が欲しいんだ?
ぼくは呆れて彼にいった
できれば 愛とか?へへっ 
ブタはまた下品に笑った


女神

  ともの

高架から見える自由の女神に
砂粒のような願いをこめた
今日

君 下着姿の女が30分に1回のサービス
暗転
柴咲コウは歌がうまい
雪が降りだしそうな冬の朝
鏡に映る背中
温水器が壊れてお湯が出ない
ホテルニューヨーク
コピー用紙が肌をなめあうような
つるつるの恋愛小説からは
経血のにおいがしない


お寺には必ず仏舎利、すなわちお釈迦さまの骨が埋められているように、世界に無数にある自由の女神のレプリカにも、なにかしらの縁がある。だから、お台場の自由の女神や、赤羽の自由の女神のことをそんなに馬鹿にしちゃいけない。高架を走る電車から見える、あの自由の女神もちゃんとした女神さまなのだと、成長著しいBRICsの国々のガイドブックには書いてあるらしい。テイラーが海岸でみつけた女神の生首と全部、ぜんぶつながっているのだ。
片手で数えられないくらい前の冬、翌日から雪が降った夜。ホテルニューヨークの部屋ではお湯が出なかった。お腹の精液をティッシュでぬぐって、水で湿らせたタオルで拭けば、もちろんのこと「つめたい」。そこらへんじゅうに張ってある鏡みたいに、意味を問いたいほどに、つめたかった。ぼんやりして、そのまま眠って、起きてブラのホックを留めていたわたしに、これでおしまいだと、勝手に男は告げた。ホックが爪と指の間に入って、痛かった。沈黙が続く部屋の中、「ばか」と言い返してみた。「ばかって言う奴がばか」なんてことは、だれが言い出したのだろう、と考えた。


ここには 自由があるらしい
自由すぎないかな ホテルニューヨーク
ビルの頂上に 女神が立っている

真横を避け 男の半歩うしろを歩く帰路
駅の近くで歌が聞こえた
(柴咲コウ、歌うまいな)
男が言った
(柴咲コウ、歌うまいな)
わたしは返事をしなかった

(柴咲コウ、歌うまいな)

彼のことはすっかり忘れた今も
柴咲コウの歌は 時折口ずさむ

すぐには電車に乗れなかった。落ち着きたいがための消費を求め、駅ビルの書店で恋愛小説を買った。電車に乗ってめくる。乗換駅。月経が始まった感触を覚え、手当てをしたあとは動けず、ホームのベンチで文庫本を抱えたまま、何本も何本もの電車を見送って、泣いた。小説がつまらなすぎて、下腹部が痛くて、泣いた。12本目の電車に乗るとき、ゴミ箱に文庫とティッシュを捨てた、祝日午前11時。吐く息が、鼠色に、変わった。


桜咲く夜に美しく見えた川が、落葉を満たしてドブ川に戻る。美しかった精神の交わりが粘膜の接合としてしか捉えられなくなる。恍惚とした瞬間を思い出せばうすら寒い。君の言葉と行動とわたしの生活と意識、その分離、乖離、思い出す遠心力に、錯綜。混濁の谷間で出会った君にとって、わたしは轍のような存在。それならば、プラスチックの人形になりたい。猫のあたたかさもシリコンの柔らかさも持ち得ないわたしを、君、どうか本棚の横に置いていて。いつしかほこりが積もるからだ。つるつると化学のにおいのする手のひら。西日が当たり、変色する。

「プラスチックにしてください」

高架から見える自由の女神に
砂粒のような願いをこめた
今日

経血のにおいがしない
つるつるの恋愛小説は
コピー用紙が肌をなめあうようだ
ホテルニューヨーク
温水器が壊れてお湯が出ない
鏡に映る背中
柴咲コウは歌がうまいと言った
雪の降りそうな冬

君 下着姿の彼女と約束するアフター
不実を嘘であがなう
わたしも嘘で応じる


高架から見える うすよごれた女神に
祈りを捧げてみた
車窓
今日もまた、
流動する風景。


冷製の夜

  りす

さめてしまう眠りのなかに
鉄のスプーンをさし入れ
夢のとろみをまわす
まだ温かい
液状のわたしはどこへでも流れ
私をすくう匙加減は
夢のなかでも 夢ではない

夜という浅瀬を破り
小舟たちが眠りへと漕ぎだす
数人の仮死と袖が触れあう
夢をみたと言えば許される人の
口を摘みにやってきたという
青く錆びたスプーンを
口元に強く押しつけられて

寝苦しい夜のふちに手を掛け
眠りを傾ける
唇を寄せて
冷めた夢を啜る
水っぽい私の味がして
暗闇でじわりと
喉が鳴る

華奢な小舟の腹を噛むと
甘い血が舌を走った
まだ温かい
わたしが手足に運ばれ
夜半 
満ちるように
ふいに上体を起こす


空き室

  鈴屋

曇ってる
いつだって曇ってる
昼下がりの駐車場には青い2tトラックが一台だけ
そのむこうのモルタル壁のアパート
そこに住んでた女をつけたことがある
臙脂色のスカートの腰ばかりを見ていた
足が悪いのかもしれない、変則的にゆれた
ヒッコリ、ヒッコリ・・・、そんなふうに口ずさんだように、おもう
横顔しか見なかった

 *

鉄の階段をのぼる
足裏にかすかな共振をかんじる
2階の屋外通路に上がってあたりを見わたす
電線が急に増えている
駐車場の四角い網柵沿いに雑草とコスモスがいっしょに生えている
路面の白線が浮いている、道にも住宅にも人がいない、動かないから写真みたいな景色
二番目の部屋のノブをまわす、軸があまくなっている
うしろ手に閉めて板の間に上がる
ぬぎ捨てたスニーカーを見かえす、片方がひっくり返っている
ステンレスの流し台が乾いている
クレゾールがにおう、気がする
クレゾールのように美しい、というおもい
トイレを開けてみる
ごくうすく水ぎわの形に黒ずんでいる
板の間から畳の部屋へ
押入れはすべて開け放たれている、その空っぽの床に落ちている
ピンクのセロハンに包まれた二個のナフタリン
半月のように欠けている
柱の釘の黒い頭、点々とある釘やフックを抜いた黒い穴
畳はあんがい傷んでいない
女はそのように歩いた
カーテンのない窓を顔の幅に開け外を窺う

降りだしそうな空の下に一面の野菜畑、そのむこうに
私鉄の架線だけが見えている
溝みたいなところを走っているらしい
窓を閉めて部屋に向きなおる
壁に跡づけられた家具の幻影
にわかに動きはじめる空気
じっと見つめる
人型が板の間のほうから入ってきて立ち居ふるまいする
腰のあたりを目で追う、ヒッコリ・・・
あとをつけたことがある、自涜に駆られる眩暈
畳に尻から落ちて仰向けに寝る
外の音をさぐる、なにもしない
ドーナツ型の蛍光灯が真上にある
遠く、警報機が鳴る
背中に寒い湿り気をかんじる
横顔しか見なかった
電車の音がする
密生するサトイモの葉の上をパンタグラフが蟹みたいにシャカシャカ滑っていく
窓に立たずとも見える
好きな景色


記憶

  ミドリ

腕に雪白のネコを抱いている男の子は
黒縁の眼鏡をかけた
青白い顔をした青年だった
マンションの廊下から出てきた彼は
5階の手摺からネコを中庭に投げ捨てる
まるでトートバックを
ポンと放り投げるように

ネコは空中をくるくると回り
芝生の上に潰れるように落ちた
雪が
とても多く降った夜だった

ねぇ
心の底で思ったことがある?
何をさ
憎しみから誰かを
殺したいと思ったこと・・
あぁ 多分 あるさ
きっと何度だってね
何度も? じゃ
そのうちの一人に
あたしも入ってる?
彼は少し目をしかめて
わからないと言った
12月15日の朝に
彼は通勤電車に飛び込だ
もう7年前の話

きっと誰の身の上にも
命が少し
軽く感じられる瞬間があるんだと思うの
確かに
あたしにだってあった

ビールの栓を抜く音
グラスの触れ合う音
マンションで槙村くんがTVのチャンネルを
パチパチとかえる
転勤が決まった
来年の4月だよ
辞令が出たの?
それからあたしは黙って炬燵に足を
深く突っ込んだ
槙村くんも
何も言わずにサッカー中継を観てる
15分たって
ハーフタイムに入った時
槙村くんはあたしの肩を抱き寄せ
あたしにキスしようとした
その腕を強く押し返したあたしに 槙村くんは
傍にあった新聞紙を 投げつけた
テーブルの湯飲みがパチンと激しくこぼれ
あぁ 全部
きっと全部終わっちゃったって
その時 強く思った 
時々 そんな風に思う
君もあたしも独りで
独りと独りだから一緒にはなれないのって
だから 全部終わりなのって

何日も
雨が降り止まない梅雨の午後に
一匹のネコが
あたしの部屋のドアをノックした
彼は雪白のあのネコで
7年前にあたしを見たっていった
ヴェロアを張ったリビングの椅子に
彼は深く腰を掛けると
葉巻に火をつけた
なんだよ
この家はお茶も出ないのか?
彼はエラそうにそういった
出て行って下さい! (><)
あたしは彼を睨み付けてそういうと
眩しげに眉間に皺を寄せ
悪くない味だ そういって
指先につまんだ葉巻を彼は見つめる

ねぇ 出ていって
警察呼ぶわよ?
雪白のネコは足を組みかえ 
あたしにこういった
お前 昔とズイブン変わったよな
どこがよ?
髪型とかマスカラとかシャンプーの種類とか
そのへん
当たっり前じゃない!
7年もあたしを放っておいて 何よ!
ふいをついて出た言葉にあたし 涙が止まらなかった
時間が今 あたしに優しく寄り添っている
そんな気がしたから
だからあたしは泣きながら彼に
出て行って!って 叫んでた
胸が激しく引き裂かれるほどに強く
彼に向って叫んでた

お願いだから 出て行って・・


宇宙始まるお☆

  ケンジロウ

ブルマを頭にかぶった先生
女子生徒とSMをする
Mの先生が縛られて
Sの生徒がロウソクたらす

「あ」「あ」

(気持ちいい 気持ちいい!)
(もっと  もっと!)

生徒の乳首はキレイなピンク
先生がなめるとぷくっと立つ
縄で縛られた皮膚が赤くなって
体中がニトログリセリン

生徒が手に持ったロウソクを
先生の口に突っ込む

「ジュジュジュ! ジュ!」

ハアハア喉が焼ける
ロウソクをフェラチオ

 
生徒の命令で先生
クリトリスを舐めはじめ

「ペロリンコ☆」

コリコリときはじめたら
やっとチャックを解放区

取り出されたペニスを
やさしく生徒が口に含む
先生は前後に揺れて
もう少しでイキそう

(センセイ イキまーす!!)

 

MMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMM
その時学校が
大地震のように揺れた
揺れがおさまって外を見ると
暗黒に=鬼=がひしめいてる
MMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMM

 


さあ
殺される
いや
死ぬことは出来ない
私はすでに死んでいる


こん棒


肉体を貫かれ、引き裂かれ
意識はしかしいつまでもはっきりしているので





喰われる

バラバラ!

 
神だ!
神はいないのか?


 

神はいた

神はランドセル入れの上に座っていた
神は呆けていた
圧倒的に無関心だった


=鬼


鬼氏は強く、何の反撃もできませんでした
しかしそろそろむかついてまいりました
どうにもならない状況が我慢ならなくなってきたよ
理不尽だと思ったYO
こんな不条理は到底受容できなかった  ! YO

 
神の首をひっつかんで床に投げつけた

「ドッギャー!」

顔を足で踏みつけてみぞおちを蹴る
ペニスがあるらしいのでカッターで切った

「チキチキ」「チキチキチキ!」

神は泣いていた
許してくれと嘆願した

「うひゃほ ふひー」

許すはずがなかった
その瞬間目をカッターで突き刺した

「死ね 死ね
 しね しね しね
 死にさらせ ブッスブッスブッスぶすー」

殺意がこみ上げてくる
カッターを突き刺しまくった
快感がこみ上げてくる
ひいひい
神は死んだ
なきがらは惨めに醜く横たわり候

☆★(^0^)★☆

して先生は射精した
気持ちよかった
精液は神にかけた
神のアナルにファックした
射精した
神は喜んだ
むしろ子沢山だった
巨大な教室全体に向かって挿入した
はあはあ ハア
射精した
これは一番気持ちよかった

 
聖画に向かって射精した〜
天使の仲間にレイプした〜
悪魔は焼肉で焼いたらうまかった〜
けど料金はそれなりに高額だった〜♪

 

う(ち)

 



 



 
腹減った
M子を焼いて食いたい
うまいだろうなあ
SEXしたい
殺したい
肉食したい
もう我慢ならない

M子SEXしたい
殺すしたいSEXしたい
フェラチオしてくれ
おっぱいなめさせて
お願いお願いおっぱいなめさせて
乳首出しルックがいいよ

山 川

乳首

お前の射精は授乳の隠蔽だ!
お前の乳首にペニスを挿入いたす
ぬんめり
ポカリスエットのCMみたいだ
愛してるよ M子
その目を記録しよう
この鼻を保存しよう
この唇を保存しよう
お前の全てを保存しよう
お前のへそと
俺のへそとをつないでくれ!
お前に 帰りたい
お前に 生まれたい
お前に 宿りたい
お前を のっとりたい
お前を 征服したい
お前に 変わりたい
お前は俺に 変わってく
全部俺だよ 全部お前だよ
さあ僕ら 抱きしめるよ
フタリは宇宙だよ オーロラだよ
ケツ割れるよ 二人生まれるよ
火の鳥乗っかるよ 宇宙始まるよ


影の樹

  殿岡秀秋

小学校の卒業写真を見る
同じクラスの子が並ぶ背後に
巨大な楠木が枝葉を茂らせている
子どもたちの顔は半分くらい覚えているが
この巨木は
ぼくの記憶の印画紙に焼きついていない

楠木は校庭の中央に立っている
校門と教室の往復のたびに
その近くを通ったはずなのに
眼の前に大きく
立つものが見えていなかった

校庭の隅の
ジャングルジムで
銀杏が葉を落とし
秋雨に濡れているのを
長靴で踏みしめながら
近づく冬の気配を見つめていた

空に白い二重線を引く飛行機雲も
遠くに小さく突きでている
二等辺三角形の富士山も
校舎の屋上から見えた

校庭の真ん中に
窪みのある幹と
枝の肘を曲げて
無数の葉で陽を浴びている楠木は
半世紀を経て写真の中に
初めて見た

幼いころは
いつも下を向いて
周囲を見ないようにしていた
乱暴な男の子
授業中にぼくを指すかもしれない教師
死や病の像を引きずりだす映画や漫画

目の前に大きく立つものを
見たくなかった
弱すぎてこの世に生きていけない
とぼくはおもった

今は目の前に立つ
大きなものが
見えているだろうか

肌は楠木の幹のように彫りこまれ
神経は茂る葉のように揺れ
感情は風にしなう枝となり
ぼくの記憶を根にして立つ樹が
ぼくを見おろしているのを


エスマヌール

  はらだまさる

十二月。景気の悪いニュースばかりが飛び込んでくる寒い冬の月曜日。小さいながらも会社を経営する還暦を過ぎた父親とその娘が二人で吉野家へ行く。

娘は注文を父親に言付けて、到着後すぐにトイレへ入る。ドアを開けると、まず男女共用の手洗い場がある。その畳半畳ほどの狭いスペースで、手を洗い終わったばかりの作業服姿の若い男が鏡に向かい髪型を整えていたが、娘の視線を気にするようにそこから出て行こうとする。すれ違う際、お互いに何となく体を反らし「「すいません」」と声を掛け合うと、若い男は閉まりかけていたドアから、煙草の匂いを残して出て行った。

さらに娘は奥へ進み、ドン突きの女子トイレのドアを開けて中に入る。正面には水着姿でビールを呑むキャンペーンガールのポスターが誰かを誘惑している。そこは地球の最果てのように薄暗く狭い惨めな空間で、何日も掃除してないような汚れたウォシュレットタイプの便器が大きく口を開けて――それはまるでゴアガジャの遺跡?いや、汚れたスヌーピーのように――鎮座していた。

(軽い舌打ち)
「汚なぁ。これから食事やゆうのに、何?この汚れ方は。店員のお兄ちゃん、ちゃんと掃除してるんかいな。」
娘は沈黙しながら腹を立てる。
「天下の吉野家でも、こういう店はぜったい流行らへんやろうな。従業員教育が全然行き届いてへんし、ホンマ最悪やわ、これ。」
備え付けのアルコールを吹き付けたトイレットペーパーで、娘は手際良く便座を拭くと、下着を下ろしてその上に座る。そしてつい経営者目線でモノを考えてしまう自分に軽く失笑しながら消音のための水を流して目を閉じた。

次の瞬間にはそんなことも忘れ、おしっこの快楽に集中する。
ジャアアァァ・・・
(言葉にならない快楽を存分に味わう娘)

前頭葉辺りで、さっきまでの悪しき感情や身体中の毒素がいっしょに排出されるのを想像しながらおしっこを済ませ、汚れたレバーを指先で「小」に傾けて、便器の蓋を閉める。

篭る水流の音が「禊(みそぎ)」の役割を果たしている。しかし、そのことに娘が気がつくことはないだろう。

丁寧に手を洗って娘が席に戻ると、すでに並卵味噌汁が席に置いてある。
「早っ!もう来てるやん。さすが吉野家。」
「・・・・」
味噌汁を啜りながら、父親が言う。
「こんな薄い味噌汁飲んだん初めてや。何やこれ。」
と答えになってない返事をして、今度は漬物に醤油と普段かけない七味唐辛子をかけながら言葉を続ける。
「これでちょっとくらい身体もあったまるやろ。」
「そんなんで、変わるんかいな」
と呆れた感じの娘。

父親は器に割られたままの卵を牛丼にのせてからかき混ぜ、紅生姜をちょっと乗せて無言で喰い始める。その様を娘は眺めながら、器の中で卵をかき混ぜて牛丼のうえにかける。それからたっぷりの紅生姜と七味唐辛子を振り掛けてさらにかき混ぜ、手を合わさずにいただきます、と関西弁のイントネーションで呟いて食べ始める。

娘は父親の注文した漬物に箸をのばす。父親がまた味噌汁を啜り、店中に響くような大きな声で「この味噌汁、お湯みたいやなぁ。」と娘の顔を見て言うと、娘は口元に丼(どんぶり)を近づけて、箸で中身をかき込みながら黙って頷く。娘、といっても去年まではれっきとした男だったのだけど。

窓の外では強い風に吹かれて【並盛3杯食べたらもう1杯】と描かれた幟(のぼり)がばたばたと音を立てている。曇り空なのに芸能人風のサングラスをかけたミニスカートで薄着の若い女が、耳にイヤフォンをしながらフェラチオみたいな口でソイジョイを齧りつつ歩いている。儀式を失ったこの国の恥部が、誰の目にも開示されている。

食事の済んだ父親と娘は、熱い茶を啜る。毎度のことだが、袋入りの爪楊枝を五六本取って、如何にも近所のスーパーで買いました、というようなブルゾンのポケットに突っ込む父親の姿を見て、娘は苦笑する。何故なら父親のデスクの引き出しには、色々な店の爪楊枝が散乱しているからだ。それからまた新しく一本の爪楊枝を取って、左手で口元を隠しながらシィシィする父親に、動物としての逞しさの片鱗と人間としての脆弱さを垣間見る。と同時に、娘は内臓の痛みに目が眩む。

「夢なんかみるな」

《これがお父さんの口癖。そんな希望の欠片もないお父さんとこの国から逃げるように世界を放浪していた数年前、イエプルというバリ島の遺跡で出会ったおばあさんに「聖水」を飲まされたことがあった。お金を要求されるのを無視して、その場から立ち去った三分後に酷い嘔吐感に襲われた。ホテルの部屋に帰ったら下痢と高熱で散々な目にあったことを、吐き気のする眩暈の中であたしは思い出していた。あの水は黒魔術にかけられてたんやと思うけど、いまの日本の不景気は、あたしのせいじゃない。ああ、気分が悪い。頭も痛い。そやけど日本電産の社長はおもしろいなぁ。あんな経営者ばっかりやったら困るけど、その商売人としての逞しさはやはりお父さんのうえをいってる。お父さんは後十歳若かったら絶対いま株買うてるのに、とあたしにもらす。人生にこんなチャンスはそう訪れへんやろう、とも。あたし、午後からどんな仕事をしたっけ?何にも覚えてへん。まだ頭ががんがんする。》

娘が空を眺める。空はどんどんと晴れ渡り、雲ひとつない澄んだ空が傾いてゆく。頭痛は握り拳の大きさで、嘔吐感の色は、丁度この西の空みたいに青から橙色へグラデーションしている。なんて美しい嘔吐感なんだろう。金星と木星が月に寄り添うように微笑んでいる。その微笑に気がついて握り拳を開いたとき、吐き気も頭痛もこの空に消えてなくなっていた。

「どうするん?うちの会社倒産しかかってるやん。」
「これからは老人相手の商売やな。それよりもはよ、エスマヌールに誕生日プレゼント贈ったらなアカンねん。何がええやろなぁ。」

《エスマヌール。お父さんが念願のトルコ旅行で出会った現地の美しい少女の名前。幼い頃、底なしの貧乏を生きたお父さんは、むかし夢みた脚長おじさんを気取っている。》

吉野家は今日も満席だった。


ハイプ

  ゆえづ

洗面台で蛇口をひねる午前5時
鳥のさえずりは黄色に跳ね
カルキ臭が洗面ボウルにつうんと鳴り渡る
窓から眺めるアパート前の公園は
つけっぱなしのパソコン画面そっくりに
生臭い陶酔とわずかばかりの現実感を持って
うす暗い浴室をしらじらと照らしあげる

8時の窓から眺める公園はハレムだ
垣根のトケイソウ群が
しなやかな手足をぐねぐねと金網に絡ませ
大きな瞳をしばたたかせている
擦れ合うながい睫毛から立ちあがる
甘く切なげな香りが
今にもこちらまで漂ってきそうだった
私はうやうやしく髪を結いながら
窓枠にもたれかかり
通りを過ぎる大きなランドセルを背負った少女達の
その痛ましいほどの細い身体を
ただ口惜しげに見送っている

午後になるとすり鉢の錠剤を砕く
それから完全に粉末になったこれを
スプーンで瓶口からさらさらと落としていく
瓶を片手に画面をスクロールする
ミルクシェイクをあおるたび
並んだ文字列がガラスの中を落ちていく
タバコの先で腕に印をつける
今日で253個目となるそれらは
皮膚で規則的な模様をつくっていた

廊下に散乱するビデオカセットを蹴り退け
再び浴室へ引っ込む午後4時には
充満する蒸した藁のような匂いが
柔らかな雨を知らせていた
全身に泡立てたボディソープを塗りたくる
眉から脚にかけての体毛という体毛を
執念深く剃り落としていくカミソリ
刃は大抵1週間で駄目になる
キャビネットの香水の空き瓶には
錆びた刃が累々と積みあがり
青臭い感傷という名のこのオブジェを眺めながら
浴槽のクレゾール石鹸液に沈むあいだ
私はしばらく死体のふりをしている
窓をびたびたと打ちつける雨
吹き溜まる妄想
常に苛まれている私が
なによりあなたを高揚させただろう

つなぎ寝巻の袖から伸びたごつごつした手指が
静かに録画ボタンを押す午後6時
窓ガラスにぼやりと映るおさげ髪の中年男
これはまた派手にやらかしてくれたね
蹴りあげた鉄格子の向こう
7時の面会にやって来たあなたが微笑む


最後の朝食

  yaya

夜中の二時半にぼくは
ヤクザの幹部になって街の銃撃戦の中
ピストルで撃たれて倒れた
ちょっと痛かったような気もしたし、滲み出す血の色は
紅いような気もした
なんだかよく解らない状況だが
そんなことはよくあることで特別に不思議にも思わなかったのだが
目が覚めた 多分
ほんの一瞬だけ早く
夢も醒めた

目が覚めて不意に震えがきた
別に訳の解らない夢の状況に震えたのではなく、ぼくの経験によると
明らかに風邪の悪寒のそれだった
寒いのでストーブをつけて布団をかぶったのだが
目をつむると何故かヤクザになってしまうので
とりあえずぼくは奇妙な幾何学模様の天井を眺めている
子供の頃風邪をひくと母がきまってトーストにジャムをたっぷりとぬって
紅茶と一緒に持ってきてくれ・・・
と、これは谷川俊太郎の詩にあった一節だったか
独りの空想にまで見栄をはったってしょうがないか
そんな記憶はぼくにはないし
だいいちおふくろを「母」だなんて言ったこともないのだから
しかしトーストをカリカリに焼いてバターをぬってその上に
苺ジャムをたっぷりとぬって
あれはなんとも言われないほどうまいものだ
目をつむるとやっぱりぼくの肩口からは苺ジャムのように紅い血が
ドロっと流れて少し酸っぱい匂いをさせている

このまま夜が明けたら
ティーカップにお湯をはってトーストを焼こう
バターをぬって、苺ジャムをぬって
紅茶はティーバックでもいいから
ベッドの上に座って独りで食べよう
薄れていく意識の中でぼくはそう思った


ショートムーヴィーを中古印刷機で踏み躙るまで、家を失った少年に告ぐ(矛盾するすべてのものへ)

  ふう

プロモーションビデオを撮影しようと眼球を黒に染め
あああこのまま僕は死のう
それでいいのだと現場監督がぼくに告げ僕ははいおうせのままにと
首輪をかけた犬を窓から放り投げたのでした
君はそのまま閉じきった部屋を燃やし
脆く崩れやすい幻想を緻密に解体するのである
ホームではひざを破いた青年はあやふやに僕を見て
それから僕の属する全てを一瞥し恥ずかしそうに笑った
連想されうる全ての中から丁寧にその隅の埃を払い
そこから何か出てきたら我が物顔で一言 これが創造ということだ
僕は吐き気がする 蓋をした便器をもう一度左手で開け右手で力まかせに殴り飛ばす
この箱庭は手垢で幾重に穢れてしまった
乗り換えるにはやり直す必要がある
こんな具合でシーン18に移行したところで僕は席を立ち
地面を掘り続ける一人の作業員に聞く
出られそうにないよと答えるので僕は悲壮感を滲ませた
それは公共の挨拶みたいなもので意味性を微かに持つみたいだが
僕はそれを感じることがない
空は靴墨で妖美に輝く
端から腐ってゆくのだと誰かから聞いた
出来るだけ高いところへと誰かが手紙を書いて
受け取り人は配達人を抱擁し、nothingと呟いた
階段では女子高生の群棲が空を見上げたまま帰って来ない
しがみつく手を払いのけ 最後のパンを犬にやったところで
意識をぷつりと啄ばんだのが誰か知る由もない
慣れてしまえばどうということはなく
金庫はいまだによく売れると笑う新聞家に
描くことを止めた美術家はその妻にキスし
そして僕らは世紀末に生きるのを諦めてさっさと支度をする
さあまだ始まったばかりの特急列車に乗っかって
停車するまで馬鹿騒ぎしよう
君はワインしか飲めないんだったね 僕もなんだ
更けてゆく夜の渦に飛び込んで 停車するまで馬鹿騒ぎしよう
僕はダッシュボードに鞄ほどの夢を積んだ


gloom2

  5or6

歌舞伎町一番街
と書かれた赤い電飾アーチを眺めながら小さな路地を入ると
下水と古い油と安い香水の交じった匂いがほのかに鼻腔に伝わる
暫く歩き
雑踏ビルの隙間に入ると突き当たりにはビルの地下トイレを案内する矢印のペンキがコンクリートの壁に書かれている
その方向に疑いもなく従い
ひんやりとした階段の音を反響させながらトイレのドアにたどり着き
男女兼用のマークをチラ見して中に入った

女が唇から血を流し
破れた服を身に付けて
睨みつけるようにして正面で立っている
すぐ横には股間を血塗れにしながら半ケツ状態でうずくまり
苦悶の表情で唇を噛み締めている中年がヒーヒーと息を盛らしている

暫くそれを眺めて俺は何も言わず
鏡が付いている洗面所に向かい
スーツのポケットから髭剃りとワックスを取り出して
寝起きの身支度をし始めた
すると女が隣の洗面の蛇口を捻り
口を濯い
おもいっきり赤い水を吐き出した
ペッ!
そして顔を洗うと中々の美人だった
固形石鹸を直接顎に擦りながら横をチラ見していると女はため息を一つ吐き
最初の一言を呟いた

ねぇ、

俺は髭を剃りながら

何か?

と訪ねる

あなたのワイシャツ売ってよ

そう言い女はうずくまっている男の横に落ちていた茶色のショルダーバッグからワニ革の財布を取り出し
束になった万札から三枚取り出して俺にヒラヒラと見せびらかした

早朝ソープ代にはなるわよ

女は俺の意見を聞く間もなく破れた服を男の顔の上に落とし
白いブラジャー姿で催促している
俺は顔を洗い大の個室に入り
トイレットペーパーで顔を拭き
そのままスーツを脱ぎワイシャツを脱いで
肌着のままスーツを着直して女に渡した

何?この香水?嗅いだことあるわ、サムライ?

当たり

女は少し大きめなワイシャツを上手く着こなし
コーチのバックから口紅を取出し
素早く塗り直し颯爽と何事もないような足取りで出ていった
俺は携帯を取り出してアンテナを確認した
一本立っていた
間に合いそうだな
俺はいつもお世話になっている新宿交番に電話して状況を教えてから下界に戻った

外はもうサラリーマンが足早に駅からこちらに向けて行進している

俺は自分の股間を見て
もう一度出てきた路地裏を見て
その場を去った

スカウトしときゃ良かったかな?

風呂の中で潜望鏡を始めた女を見ながら俺は少し後悔し

湯船に顔を沈ませた


  祝祭

私は、カーディガンに、
ルビをふる、
魂から、零れ落ちる、
台詞のない、
幽霊が、
服を着て、町を歩いている、

この寒さ、
耳を、凍えさせる、
防寒具はもう昨夜のうちに、
作者の、こだまする、
魂から、
温暖な、地方へ逃げ去った、

あれから、作者は、
体を動かしながら、
笑った、
笑いの中に、
一筋も、凍えるものが、なにもないのなら、
私たちはいつだって、
魂を、ここに捨て去ることだってできるはずだ、

昼下がり、カーディガンが、
月をたたく、
あの、光線を送り続ける、
葡萄の、果実を、
唇で、開き、
天気を、再度呼ぶために

(降らせる)
カーディガンに、ルビを降らせる、
都市の、荒廃した姿を、
思い浮かべながら、
ずっと遠くまで、
詩人のいない、世界で、
口笛を、ふくように、

この寒さ、
耳を、口を、瞳を、
覆うようして、
言葉が始まる

文学極道

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