喉が渇き、その手を差し出す、しかしだれに、その手を差し出せというのか、
愛を唄ったかのような歌手達の陶酔に、まさか精製糖の微結晶に、さもあらず、
猟銃を選る詩人達、
猟銃を選る詩人達、
喧噪にしか詩人達は静物を溶解できないだろう、
それだからこそ比喩という帆を、舵を切る様に、散りばめなくては、壊れた眼の花束を、凝らしみつめなくては、
入口はある、しかし出口はない、坂道を堰き止める果物の、そして血肉の、骨の、最期が訪れるなどだれもが夢にも思わなかった、
腐敗は歴史の、人間どもの目抜き通りからやってくる、世界を逃れなくては、扉がない、裂傷がない、果てへと発っていった、鉄道列車がもう、ない、
逃げ遅れたのだと気づいた、だが時計は容赦無く長針を、その肌へと刻み止まない、誰もが何処かに行けるものと思っていた、愚かにも、誰もが、
晩年の証明写真、ただ一つの涯へ投げられた検死室、精神病院階下より、もはや終ってしまった私小説の石の花がほころび、心臓へ至るすべての道は絶たれていった、
だれが知るだろう、英字に飲まれていった人々を、唇のかみそりを、不健康な癒着の関わりにかつて慈しみの充ち満ちていた病窓を、
だれもが自分自身を探せないだろう、あらゆる蔑称の絶え間ない鄙びた地方国家、実象は現実生活のただならぬ呵責に病みやつれ、その貌はあたらしい墓石の様になめらかであり、
傲岸であり、そして表象の、粘土、ぬかるみの薄ら寒さをたたえ、アポロンへのきだはしに落ち窪んでいるのだ、
だが人々を、侵犯するものたちが皆、貝殻を聴く薪の断面に、創世記という書かれてはならなかった後悔に、
弔鐘を打ち揺らし、そして人々を見送ったかの一日に、
諸君は覚めていることすらも叶わなかったのだ、峰には鷲の、繊毛にはペストの鼠達の歴史をかかげよ、個室には鍵をなくした螺条殻が渦巻く、
その絹の壁には埋められた塑像の肉が馨るだろう、理由もなく目は裂かれ、理由もなく声は塞がれ、そして私達にはもどらぬ未来が、彼等という私達が、
俟つだろう、どうか願わくばその後刻へ、
人生どもの応接間に、一脚の黒い椅子を築いてくれ、
それが訣別のかわりだ、
それが訣別のかわりだ、
舵を、
鐘楼に
旧る
球体鏡へ、
花を鏤めて紙の少年を新しい明日などへ誘うな
憤懣の海――地下階段
羚羊と移相――比喩掌紋のあざとくも有れ
釘の痕や風洞――絶対‐無の光芒に驕り
醜い蝶の腹腔――閂を已むなく、
潮時計――豚とし豚なせるものの挨拶に翻し
肉親に薫るもの、日食
一対 恒星の
雌雄
嘗て楕円に
偏執を――いもうとの飽くるなき真鍮花‐市民、磨鏡を紛うなき血染史に漬し
螺旋する もの
ナルシス――鏡像の静物
人体、終世を孤絶する花冠に敢えて
崩壊しゆく
城の絵葉書を宵夜爾後、松葉杖に健忘し
土地の砂時計、
正負の幾何学 意志潤うを堰止め
いろくづ、うつそうそのみにしもふりなだるらむと
曰 生膚を剥し
地球史に一刷の定款、を
企まずしてわかたれた途よ
人は人を知らずして触れ合いこともなげにそのゆびをすら離し
帰らぬ帰途を振りかえり已まない
だが敢て
兆すものがあるならば
撃て、と命じる意志をこそ撃て
ピアニストよ
玻璃の様に逞しき
空は梁
ひばりひばりと鳴くな故国を
不慮の偶然
憎しみもいやましにいてつきやまねばこそ
賤しき自が
蠅のその寵児たるを知りそむるを
_
醜い蛆よ
かばねのはてよりつきぬちもひもとかれ
印章‐史
結紮性紫斑、
そのかみがみの死府を差ししめしては
雲母などとみまごうを
鋳られたる潮はつかのはて且て曝されたる天主そののちの血飲児をうるうとも
十字格子を工廠は混めて
水銀蒸留法
塔
クロロフィル置換壜にしも地球燈を鋳れば
実にも實る虚血こそあれ
膏を乾く灯置火よ
あくるひははてなき幾兆の劫波にたけてゆきかえらず
つきくずれつつ
橄欖鳩がこえをいきに聴き損じにしが
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選出作品
作品 - 20201019_931_12165p
- [優] わたしはゐない - 鷹枕可 (2020-10)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
わたしはゐない
鷹枕可