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作品 - 20200810_107_12048p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


青空を曳くひとよ

  鷹枕可

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《空襲警報発令、空襲警報発令、至急、該当地区市民各自、防空壕へ避難されたし》

「B‐29が一機、向って来ているそうよ。」
「単機で来る奴が怖いんだ、廣島も長崎も全部、それでやられてしまったからね。新型爆弾の積載機は、何方もB‐29一機、だったらしい。」
  
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俺は、湿った八月の、玄関に立ち、象徴の不在について、考え、耐え忍ぶ、
隔絶は、もはや省令となり、国家秩序は、只、形骸の腐敗過程となってしまった、
俺は、鍵を
理想像の、決して冒してはならない 独立、の存在軸を、確かめる、
樂譜の許に、打たれた符は、人工の天蓋を撃ち落し得る、最後の反撥力でもあるだろう、
死は、その確率を、
後遺症を誇り、後悔者達を責めたてる、宛も天刑病の症候であるかのごとく
迫害者達に 思弁も、思惟も無き、排斥の理由を与えるのだ、
ペストの町に、押し込められた群衆、
逃場なしの、陽に曝され
爾後
電磁気的座標点に、群衆は掌握され、
もはや自由は、
個人への、民衆への、
支配と主権をしか、意図しないであろう、
しかし
あらゆる
尊厳は、分断をされて尚、個室の中でも育った、
結束は、検閲され続ける孤独へ、樹立を果されたひとつの想像、国家を創造し、
天高く、最も高く、光暈を、鬣燃える馬を、手綱をその権能に臨み、
そして至らしめた、
それは誰のものでもない、君達自身の国家である、
君達が勝ち取る、君達自身の蜂起である
やがて
君達は、
世界史 に真新しい血の瞋りを、注ぐだろう、
豫め、失墜を約束された、翻る 宗主 の国旗にも、
あらゆる正義、正統が矛盾の様に
われわれより八月を
略奪した様に
而して
凋落の国家に在って、猶 
為政は
絶える事は無く、
歴史への矯正教育としての学舎へ、独立運動 は後退をし、
平静へと、現実の外面を保障する、改竄機関として、機能を及ぼす、
内的葛藤は、その名前すら剥奪され、
存在の重量に、俺を、自らを捕縛し、
その想像力へと、限界を規定する、社会 より、暗黙裡において、懲罰は科され、
常識は、
言論の自由をその図式範疇より飛躍せしめる者を、隔離し、
公平制に拠って、緘口を促された、私的権限への、著しい、侵犯 である、
それはわれわれ自身の歴史であり
あらゆる社会的存在の、歴史である、
孤独は、重力であり
孤独は、斥力であった
俺は、俺自身の孤独を、楓の翼骨に、数知れぬ徒刑囚に準える、
思えば
遂に飛ぶ青空を、勝ち得ることのなかった、飛行機械、レタトリンも、第三国際記念搭も、声の為の声も、
且ては理想、平等国家を体現していたのではなかったか、
行き損ねた秋茜が、敗れた祖国の左胸に留っている、
そして、飛翔 は、心臓を、その存在の理由をあらかじめ、知ろうともなく、自ずから知っていたのだ



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わたしの青空どこにある
   帰りたくても
     帰れない
包帯みたいな雲の色
 たぎった夕の秋空に
    一番星 みつけた

_

ぼく達の頭はからっぽだ
明日になれば、もう 思い出せない
ぼく達の心臓はからっぽだ
偏見のために、何も 見えない
ぼく達の国はからっぽだ
八月の光が、落ちて 校舎が、燃え上がったときから
ぼく達の胃はからっぽだ
コーラとフライドポテトの、からっぽだ
ぼく達の頭はからっぽだ
明日になれば ほら もう 何も思い出せない








※鬣燃える馬・ 希臘神話に於けるヘリオス、の車馬 の意。
        ヘリオスとパエトンの関係性は、何処かしら、アメンホテプ三世とイクナートンの、それ を髣髴とさせる。
        飛翔をする車馬は、ルドンの彩色画にも屡見受けられるモティーフでもある。而して、此方はアポロンの車馬、とされており、イメージの齟齬、断絶を払拭し得ない。
        ヘリオスもパエトンも、アポロンと習合‐合祀をされる事はなかった。そこに統一性を隔てる、何某かが有ったのかは、今は知る由もない。

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