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作品 - 20200713_575_12008p

  • [優]  葬式 - 浅海天  (2020-07)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


葬式

  浅海天

君は言った
──偽物なのかもしれないね。
わからない。
でも、
偽物だったらいいと思う。
──どうして?
しあわせになりたいから。
──本物だったらしあわせになれないの?
たぶんね。
──ふーん。そんなに簡単に割りきれるんだったら偽物なんじゃない。
そうかもね。
わたしは言った
君は黙った
わからない
わかりたくないのかもしれない
だって
本物でも偽物でも
変わりはしないのだ
君と
キス
することはないし
一年後
わたしは彼氏と海にでも行って
がんばって育てた胸を
健康的な色をした腕に絡めながら
日傘もささずに
キスをしているでしょう
日焼け止めはとっくに落ちて
海水にすっかり溶けてしまった
大丈夫
今度はちゃんと溶けたから

かみさまは
秘密をかくすために
海をお創りになられた

──本物を見つけたら、教えてよ。
うん、もちろん。
わたしはうなずいた
君はにこりともしなかった
それだけ
たったそれだけで
わたしはうれしくなる
二重跳びを三十回できそうだ
と言ったら
君は変なかおをして
どうしようもないね
ってわらうでしょう
わたし
彼氏ができたら
まっさきに君に報告したい
ああ でも
とつぜんLINEを送るのは
あまりにあけすけだから
回り道をして
やがて君に届くように
ちゃんと計算するけれど
わたし きっと
君の不機嫌なかおを
はやく見たくて見たくて
たまらなくて
ベッドに眠る
彼氏の寝顔
を見つめて
一夜を明かしてしまうかも

──でも理想高すぎて彼氏できなさそう、だけど。
そんなことないし。
わたしはわざと
怒ったような声を出した
君はわらった
から
わたしもわらった
あ、ほんとにできないって思ってるでしょう。
──だって私だったら付き合いたくないもん。
ちょっと、ひどすぎるってば。

(付き合うなんて、思ってもないくせに、どうしてそんなことを言うの。わたしたち、おそろいの制服を着てるじゃない。)

わたしは目を覚ました
──さいきん話してる?
五ヶ月前がさいごかな。
君は呆れたような顔をした

しょうがないじゃん、クラスちがうし、話しかける用事もないし、わたしたちきっと、このままおとなになって、次に会うのはきっとどちらかのお葬式だもの。

白い天井に跳ね返った言い訳が
ひとり
遊んでいる
わからない
肝心なことは
誰も
教えてくれないから
どこまでがともだちで
どこからがイジョウなのか

偽物でありますように。
わたしは言った
君はもういなかった
わたしの記憶の中に
溶けて
ねむっている
ねえ、だんだんと
もたなくなってるでしょう。
返事は返ってこなかった
もうじき死んでしまうのね。

散骨は
瀬戸内海にしようと思う

一年後
浜辺に打ちあげられた
ガラクタの山に
わたしは彼氏を案内して
セックスをしたあと
きつい昇り坂も うすむらさきの日傘も 君のボブも 部活のユニフォームも いつかのプリクラも 嫌いだった制服も
この手で
海の底に沈めるでしょう
目の前の男を
本物にするために

文学極道

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