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作品 - 20200713_551_12007p

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母の一周忌

  朝顔

今日の午前中、お医者さんへ行った。私のことをいじめている臨床心理士さんのカウンセリングは、しばらくお休みします。と言ってキャンセルして、お医者さんと初めて真面目に話をした。

「私は、私なりに頑張って、母のことを愛情持って世話していました。でも、母はどんどんどんどん大きくなって、食虫花になってしまい、私のことも呑み込もうとしたので、私は走って遠くの安全な場所に逃げました。弟も同じこと言っています。『お母さんはカオナシみたいだ』と。私、詩集出して以来、みんなにお母さんのこと受け入れられないの?と言われます。でも、私はまず自分の身を守らないといけないですし、それに私、食虫花あんまり好きじゃありません。」と。

お医者さんは、余計なことを言わないで黙って話を聞いてくれて、来週のお薬を出した。帰り道にスーパーでお豆腐のハンバーグと南瓜のサラダと牛乳みかんかんを買った。夕焼け坂を下りながら、私は自分のことをもう許してあげて、好きになってもいいような気がした。

母は、本当に綺麗で残酷で獰猛な食中花だった。私が、一生懸命に水遣りして育てた花だった。でも、枯れてしまってもう二度と生き返らない。母が死んで一年経った夏至の夜に、私ははじめて膝を抱えて、体を折り曲げるようにして泣きじゃくった。

どうして泣いているのかはよくわからなかった。窓の外は藍色に林立したビルの灯りが消え、いつの間にか白み始めていた。

文学極道

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