時計の針は盤上を回る。
静かな音を発しながら、青を求めて回る。
埃をかぶった古時計は威風堂々と立ち、
短針が二周したことを鐘をついて知らせる。
歯車の音が、微かに聞こえる。
長針は、彼にとって右腕なのだろう。
前に突き出すために長いのだろう。
私が右腕を使い、右手を使うときは、
たいてい何かを引き寄せ突き放す。
彼もそれを、腕を振り回すことで行っている。
六時を置いて七時を求める。
短針は、彼にとって左腕なのだろう。
ちぎれては困るから短いのだろう。
私が左腕を使い、左手を使うときは、
たいてい私の身に危機が迫ってる。
彼もそれを、腕を振り回すことで表している。
真夜中とは物の怪の領土だ。
時計の針は空論で回る。
ディジタルを前にして音は無力だ。
腕時計は手入れをするから手垢にまみれ、
何も示さず、劣化する太陽を内包する。
歯車の音が、微かに聞こえる。
切り出した薄紙の一枚が、私となって、
白く浮かんで、盤上に乗る。
青と、私を、求めるままに。
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選出作品
作品 - 20200323_549_11776p
- [優] 刻と私 - 黒羽 黎斗 (2020-03)
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刻と私
黒羽 黎斗