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作品 - 20200113_774_11676p

  • [佳]  県境 - 山人  (2020-01)

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県境

  山人




十数キロ走ると県境となる
トンネルの中心を境に、向こう側にいけるのだった
県境は六十里と呼ばれ、霧があたりを覆いつくしていた
前線に覆われた列島だったが、ここ数日は安定しているという
登山口には誰もいなく、カード入れが少し傾いていた

整った衣服、顔立ちのそれぞれの女たちは車から下車し
あたり障りのない会話を放ち、別れた
なにかに左右されるでもなく、あちらとこちらを見極めた女たち
生活を静かに引き出しに仕舞い、豊かさを綺麗に振り分けて
日々を入念に紡いできたのだろうか
自我を見つめ、誰よりも己を愛し、時間を積み上げてきたのだろう

細身の女たちと鮮やかな雨具をサイドミラーで眺め
大カーブを曲がる
もう後部座席に女たちの気配は失せている


二級国道の脇には大手電力会社の巨大な送電線が連なり
その下には、どうしようもないほどの緑色のススキの群落がひしめいている
かつて、その斜面を初夏の熱波に照りだされ
私たちは無言で労働した場所だった


あの草は私だ、あちらの草の塊も私
あちこちに私のようなものが点在していた
草のように刈られ、再び発芽し、生きているだけだが死んではいない


次第に峠のS字カーブは下降し、直線道路に差し掛かるころ
幾日か続いた雨の影響で川はうっすら濁っていた
間欠ワイパーの間隔を少しだけ広めにとり
濃い、雨で立体的となった緑の彩を
私は眺め、車の律動の中に沈んでいった

文学極道

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