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作品 - 20191015_477_11508p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


山道へ

  山人



明けない朝、雨音が体中にしみこみ、体内に落とし込まれている
体内にピカリピカリと衛星が動き
コーヒーの苦い液体が少しづつ私を現実の世界へと導いていく
ありったけの負の感情と、希望の無い労働のために
むしろ、その負の中に溶け込んだおのれを
苦みとともに臓腑の中に流し込んだのだった

言えるのは、戦いは終わらないということだった
命が潰えるまで続くのだよと
漆黒の闇の中に虫の音の海があって
その音が戦いの継続を示唆している

ゆっくりと私の魂は黒く沈殿してくる
あきらめが脳を支配し、しかしそれは虚脱ではなく
たしかな戦い

雨音は私の内臓の各所に点滴され、脳をも溶かし
私はきっと名もない羽虫のように
無造作に表に出ていくのだろう


       *

入り口はこちらです
あらゆる光景は
私にそう言っていた

ぬめった木道の傷んだ罅に雨が浸み込み
雨は暗鬱に降っていた
季節外れのワラビの群落が隊列をつくり
朽ちかけた鋼線のように雨に打たれている

現実という苦行の中に砂糖水を少し加えれば
さほどでもないだろう
と、山道の蛞蝓は光った
これは苦しみではないのだよ
名もないコバチの幼虫に寄生された毛虫は
季節外れの茎にへばりつき
死を免れる術を知らず、まだ生きている

私はクルクルクルと現実のねじを巻き
体を迷宮の入り口に放り出すのだ
そのあとは勝手に私という生命体が山道を歩きだす

熱は発露し、汗を生み、熱い液体が額から次々と流れ落ち
私はただの湿ったかたまりとなる
作業にとりかかれば、そこには思考の雑踏があらわれ
そのおもいに憑りつかれ、酔い、やがて敗北する

作業の終焉を祝福してくれるものは一介の霧だった
朽ちた道標がのっぺりと霧に立ち
黙って私の疲労を脱がせていた

文学極道

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