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2019年08月分

月間優良作品 (投稿日時順)

次点佳作 (投稿日時順)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


水没都市。

  田中宏輔



 教室が半分水につかっているのに、先生は黒板の端から端まで書いてる。ばかじゃないの。「ばかやろー」って叫んだ子がいる。どうせ街中、水びたしなんだけど、せめて学校でくらい、机のうえに立って、濡れないでいたいわね。


叛分子、記憶

  鷹枕可

鉄よ 呪われるがゆえに
讃歌を
与え奪う者
その破滅を
かの顔へ叩き潰す
竈の炎に鍛ぬかれたひともとの
廻転する死、
略奪の母
生を価とする死‐
あらゆる天使達の貌を観よ
牙は膿に塗れ
毒は臓腑を灼く
硫黄の垂涎を以て、

崇拝せよ、嫉むそのかみこそを

市街、殲滅は覆い、
偶像破壊を恍惚と
暴虐を複製物とし
価値無き、普く死するためだけに在る
 栄誉
そを煽り
軍靴を揃えよ、
 <行進しゆく後に何をか,>

今こそ蜂起の時
死を怖る者に
死を
精悍たれ
軍装の青年達
猶美しく徽章の華を誇り
異人には極刑を
非-選民には銃殺を

プロパガンダ、忌々しくも堅牢たらず
われらが正統たる
奴隷統治、
進行を阻まば
誰なるとも 非国民 にて

係る惨死を累累と築け

人間ならざる敵、そを
敵たる筈の
 人間  
が血に
われは
荘厳たる血反吐塗れ


肋骨

  アルフ・O

 
 
 
ねぇ 多分
この肋骨に埋まったファスナーは
君に開いてもらわないと意味ないんだ。
いくらお揃いの宝石を欲しがったって
最後には誰かが能動的に
使わなければ意味はないのさ。
びっくりした?

「不安にさせてどうするの」って
君は問うけど、
離れていく人にかける情けは無いよね。
花火を燃え尽きるまで掲げるだけさ。
ほら、信号の点滅が止むよ。
 
 
 


うしのナニー

  camel

横たわった肉のかたまり

まさぐりながら
牛のお産を思い出す

脚から引きずりだす農夫
ピンクの膜が藁へと落ちる

うめきをあげる牝牛
口の中のミートボール
あの日のナニーはチャンネルを変えた

ミルクはおいしい
ミートもおいしい
全部平らげたディナータイム

白い膜が床へと落ちた
今のナニーは褒めてくれない


背中の躍動について

  右左

二〇〇一年九月二六日、日本のプロ野球パシフィック・リーグにおいて、大阪近鉄バファローズが優勝を決めた。バファローズという球団は、日本プロ野球界全十二球団のなかでも決して強いチームではなく、最下位争いをするシーズンももっぱらであり、じじつ前年は最下位であった。この年のシーズン開始時点で、バファローズの躍進を想像していた人間は、ほぼ皆無であったろう。優勝決定試合もまことに劇的な展開で、その華々しい大逆転劇は、プロ野球史の一ページを彩るにふさわしいものであった。当時まだクソガキほどの年齢であったわたしの記憶にも鮮やかに残っている。ところで、この試合の最終スコアは6対5だったのだが、その約十日前、同スコアでバファローズが勝利した試合がある。あれから二〇年近く経ったいま、わたしが活き活きと思い出すのは、むしろそちらの試合のことなのだ。その試合を、わたしはテレビで見ていた。終盤まで劣勢に立たされていたバファローズは、なんとか得点のチャンスを作りだして、打席には礒部公一選手。結果は……逆転ホームラン! 悲鳴のような歓声をあげるバファローズファンに向かって、礒部はガッツポーズをしてみせたのだった。

さて、野球の試合会場には、テレビ放映用のカメラおよびカメラマンが至るところに存在する。あのホームランの瞬間、無数のレンズが礒部に向けられたことだろうが、テレビ中継に映っていたのは、三塁側のそれから捉えられていたものだった。そして、礒部のガッツポーズは、一塁側の観客席に正対して行われていた。したがって、視聴者は、礒部の背中を見ることになったのである。礒部は、跳ねるように一塁ベースへと進みながら、右手で握りこぶしをつくり、まず肘を九〇度ほどに曲げ、つぎのステップで腕をおもいきり伸ばした。時間にしてたった一、二秒にすぎないこの躍動する背中に、わたしはつよく魅了され、いまなおなまなましく覚えたままなのである。

その心的要因について、深く考察したためしはない。むろん、対戦型スポーツにおける、点数の推移をはじめとした昂揚感がそこにあったことは、やはりまちがいないだろう。しかし、と思う。あの礒部の映像が、もしも背中側からではなかったら、はたしてこれほどまでに胸を打っていただろうか? ほとんど確信をもって言うが、そうはならなかったはずである。ではもうひとつ、映像はそのままに、逆転ホームランを打ったのが礒部ではない別の選手だったとしたら? たぶん、いまと同じように、じーんと記憶しているように思われる。すなわち、あの感動の大きな一翼を担っていたのは、人体のひとつの部位、背中だったのではないだろうか?

背中で語るという月並な表現は、本来的に背中は表情をもたないことを裏返した言い回しである。そのとおり、背中は喜怒哀楽を有さず、言葉をしゃべりだすこともない。だが、背中がなにかを物語ることは、たしかにありうる。話が飛ぶようだが、わたしはここで、父方の祖父の葬式を思いだす。親戚一同が集まるなか、父は最前列に座っていた。わたしはその真後ろにいた。わたしの後ろには、親戚たちが、知っている人も知らない人もたくさんいた。坊主が読経を読んでいる。その間、ひそひそとしたしゃべり声や、すすり泣く声などが、いろいろな方向から聞こえてきた。だが、父の身体からは何も聞こえてこなかった。父はじっとしていた。まっすぐに坊主のほうへ顔を向けていた。実際は、目を閉じ、涙をこらえていたのかもしれない。静かに泣いていたのかもしれない。人間が亡くなったあとの雑務で疲れはて寝ていたのかもしれない。本当のところは、背後にいたわたしからではわからない。けれども、父の背中は、そのすべての可能性を包摂し、しかもそれ以上のものをわたしに感受させたのである。わたしは、祖父ともう会えないのだという悲しみを忘れ、父の背中に深く見入った。それは、状況から見て不適切だろうが、疑いなく感動であった。背中は沈黙しながらにして雄弁なのである。しかも、その雄弁さは、あるひとつの感情を表すのではなく、複雑巧妙な人間心理をいちどきに表現してみせているのである。もしくは、あるひとつの感情、たとえばここでは悲哀のそれを、より強調するように表しているのではないか? そう考えたとき、礒部公一の背中は、後者の意味において、わたしを感動させたのではないだろうか。歓喜を背中という一点に集中させることによって。


はじまり

  田中恭平

 
詩に
没入し
世間に
放り出された
身を
救う

そこには花のような音楽があって
雨でぬれて、光っている
花も泣くのさ
帰り道
まちがったまま歩く

空への
階段をめぐり歩き
深くまで
やってきた

素手で
ドライアイスを
掴めるか
きみ!

わたしは疲れきって
冷たいカルピスがほしい
乳酸菌を武器に
第三次世界大戦
ヒロシマをかんがえた

物憂げ
空は晴れて
かつて黄昏れ
今日のおわりのこともわからない
斜視を正し
写真に写る
巡礼がはじまった

 


春も秋も

  鷹枕可


壜詰めの薬箋紙
乾花
抛られたピアノの鍵
_
_

日没、そして
空の翼にまどろみながら
山鳩の孤独に
預けた
もどることのない、
霜鬩ぐ野への夜想もつかの間に

印象、耳の襞
向日葵、
群衆
あなたは
いつからそこに立っていたの
機械的な
感傷への排斥を肯うことなく
端整な円柱の様に
在る
ときのなか

今迄を
その樹は
白い鐘楼は
鳥達のゆりかごだった
あまりにも重たげな
燃える釣鐘、
花熟れる樹にも鉛の残酷なベルが過ぎ、
真鍮の天使群が円時計のなか
墜ち、或は昇り
街にも燈が灯る
一日を
永遠の疵が刻む頃に、

印象、その最期のひとみ
優しげな母とその子を
枯葉の林の抜道を
秘密の木蔭を
淡く眩く
時に淋しく降る、
陽のはなびらは

現を夢見た、

こころみられた
山鳩の声
それは
亙る梢、風のさざめき
あなたのいつくしみを受けて

春も秋もあなたをおもう


雨降り

  宮永



庭に雨がふってます。
昨日も今日も降ってます。
最近雨ばっかりな気がする。
ランドセルが重いのに、
プラス長靴と傘。
しょうがないよね、梅雨だから。
青い空と入道雲の夏休みはもうすぐ。
そう思えば何てことないよね。


街に雨が降っています。
今日もまだ降っています。
洗濯物もなかなか乾きません。
妻にねだられて
乾燥機能つき洗濯機と除湿機を買いました。
仕事が休みの日には夫婦で
大自然が舞台の映画や
お笑い番組を見ています。
夜はベッドに寝転んで
毎晩同じような会話を交わします。
「いつやむのかなぁ」
「まさか、ずっとなんてことないわよね」
「そりゃ、ないでしょ……たぶん」


昨日も今日もその前も、
ずっと、ずっと、雨が降っています。
除湿機をかけているけれど
ちょっと油断すると黒い黴が生え始めます。
スーパーでは新鮮な野菜が手に入らなくなりました。
野菜どころではなく、食材は何もかも品薄です。
お昼のニュースで言っていました。
薬剤耐性のある菌が新たに出現し、
たくさんの人が肺炎で亡くなっているそうです。
絶えず耳にする雨音と悪いニュースに
気持ちが沈みがちになります。
そんなときには目を閉じて、
抜けるような青空や浮かぶ雲を想います。
晴れた空を覚えているから、耐えられます。
あとで実家の父や母に電話してみます。


雨が降っています。
降らなかった日なんてあるかしら。
令和生まれの祖母は
晴れた空を見た記憶があるといいます。
雨が止まなくなったときには大変だったと
教科書にも載っています。
私は本物の晴れた空を見たことがないので
毎日雨でもぜんぜん気になりません。
外にはあまり出ませんが
迷路のようなショッピングモールや
サンルームに通うのは楽しいです。
屋内栽培の作物だって清潔で美味しいし。
建物の下に張り巡らされた雨水路を
連なった船で移動することもできます。
病院に行くときおばあちゃんは
「イッツァスモールワールドみたいだ」
と言います。
毎回言います。
なんだそりゃ、と思います。


てんとうむし

  たこ吉(たこ)

夜のものでも
昼のものでもなく

天道をめぐる
小さな虫よ

はてしなく、はてなく
のぼり、のぼり

君が銀河をめぐるとき
そのおくり翅が描く軌道は
いつか、もときた
地点に至る

永遠に巡り
繰り返し、たどりつき
君の場所はどこなのか

僕は
空に散らばった
幸せを、拾って集めようと
おもう。

あぁ、
きみのさやばねの
水玉模様が

いたるところ
いたるところに。


Tag, You're It

  アルフ・O

 
 
 

(つーかまえた、つかまえた♪)

泡の外側を反時計回りに回る
皮肉交じりに吐いた愛の言葉の断片
集めたポストカードがひとりでにボクを取り囲む
その感覚に、また疼く裂け目へと手を延ばす
あとから買った、カンバスに描かれた半裸の少年が
すべてを見張ってる気がして

(つーかまえた、つかまえた♪)

趣味の悪い自浄(自傷ともいう)行為だ、
って自分で断罪しちゃってどうするんだろう
心臓を刺すこともできないくせに
鏡が多ければ良いって問題じゃないさ
破れたTシャツに、貴女は自分をなぞらえて
キッチンで崩れ落ちそのまま3日眠り続ける

(にがさないよ?)

「もはや会話ですらない、って言ったよね
 だからウイルスソフトで綺麗にしたよ
 ナイトプールに行こうよ
 お揃いの黒の水着でさ
 間接照明がボクたちふたり以外の眼に
 スクリーンを掛けていくのを夜通し眺めていたいな
 お互い以外を拒絶する隙間を分け合ってそのまま
 このワンルームに帰ってこようよ

(こわい、かお。)

触ってるうちに空白でいっぱいになっちゃってさ、
保証期限の過ぎた身体というのは嘘じゃなかったんだな、って。
ck oneでもBVLGARIでもMARC JACOBSでもChloeでも
纏ってしまえば一緒だって無茶苦茶なことをいう
その必要もないくせに
眠くなるまで喋り続けたなら
もう捕まっちゃっても良いかな、って結論にしよう
外注したリビドーは、脳血液関門だって簡単に黙らせちゃうから、

(ぎゅっ。
 
 
 


夏の記し(三編)

  帆場蔵人

1 夏雨

梅雨の長雨にうたれていますのも
窓辺で黙って日々を記すものも
ガラス瓶の中で酒に浸かる青い果実も

皆んな夏でございます

あの雨のなか傘を忘れてかけてゆく
子ども、あれも夏、皆んな夏、

皆んな皆んないつかの夏でございます

そろそろ夏は梅雨をまき終えて
蛍の光を探して野原を歩いております

***

2 夏の鶏冠

紫陽花寺の紫陽花が枯れてゆき
昼か夜か、ゆるりと池の蓮子はひらく
息をゆるりと吐くように息吹いてゆく

白雨に囚われた体から漏れるため息のよう
しかし、それは曇天を燃やしてやって来た

色褪せてゆく庭を
悠然と歩き時に奔放にかけ
地を啄ばみ曇天を燃やす
焔のような鶏冠を頂き
枯れゆくものを見送り
咲きくるものを迎える
使者のように

ひぃ、ふぅ、みぃ、よ、の鶏が
梅雨を啄ばみながらその鶏冠で
終わらない夏に火をともす

いつのまにか蓮子がひらき
続いてゆく夏の小径を私の足は
軽やかに動き白雨を突き抜けて
入道雲を呼びつける使者になる

***

3 黄昏れる怪談

夏の放埓な草はらの彼方に
白く靡くのは子どもたちが言いますに
一反木綿だそうなのです

また海に迎えば落ちてきそうな入道雲
あれが見越し入道だと笑っています

片目を閉じて一つ目小僧、物置きの
番傘は穴あきのからかさ小僧、はてさて
では子どもたち君たちはなんの小僧か

あゝ、楽しくてこの怪談はちっとも
涼しくないのです、子どもたちは
手を繋ぎ私の周りを周ります

夏の夕べに誰彼と行き交う人が笑います

後ろのしょうめんだぁれ?と
聞くなかに見知った子どもはいないので
ひとつも名前を呼べません


野紺菊

  山人

蛾がおびただしく舞う
古い白熱電球のもとに
私はうずくまり
鉛の玉を抱えていたのだった

来たる冬はすでに失踪し
魚眼のように現実を見つめている
そして体内に大発生した虫
幼虫の尖った口が震えながら胸をつつく

すべての事柄に
深い意味があるのなら
まるで体をなしていない
この鉛の塊に
どんな意味があるのだろう

夏は終わった
やがて道端には、あの
鮮烈な紫色の野紺菊が
きっと咲くだろう

しろい決断の前に
あざやかな色どりの野紺菊が
少しでも胸の虫どもを
やさしく殺して欲しい


分断

  霜田明

浪費癖がある
財布のなかに金をいれておくと
すぐ使ってしまうからいれないようにしている

今日だって図書館から帰りながら
もう六冊も借りてきたのに書店で二冊も買ってしまった
五千円札が二百円になってその二百円で電車に乗った

子供のころ欲しい物が買えなかった反動だと思ってきた
それは判断を打ち切るための判断
子供のころの自分はすでに浪費に取り憑かれていたんだ

   *

図書館で詩集を立ち読みしていたとき
ずっと抱いてきた詩への反感が顕在化したように感じた
考えることを我慢しているような表現
あるいは考えるということを諦めているような表現への

嫌いな詩人に対して抱いたのなら
反感の顕在化なんて表現にはつながらなかっただろう

  わたしはそのことについて何もしりたくない
            『アンコール』ジャック・ラカン

   *

最近子供の姿を見かけると
心中に奇妙な動揺を覚えることに気がついていた
普段子供の姿を見かけるのは休日の道ばかり
今日は午後五時半に駅に着き、定時帰りの人の多さに少し驚いた

子供は僕の無知を象徴していた
数年前までは子供が好きだった
いまでは恐れている


a boy

  白犬

掠めてく風に目を眇めて

煽られた短い髪の毛の中で 渦巻く宇宙

ある視点

失われたハイウェイへの侵入を許して 指先の言語で 旋風生んで

も 少し

ナゾルよに 駆けてく 夜光が 君の足首

ぺらいTシャツの中に隠した骨格 が 崩壊するまで 何度も

夢のよに謎った裸の肉 齧る



夢の中まで 会いに来て



悲劇の中で生まれた僕(ら)の 腐敗し続ける傷口を

君の淡く光る夢で撫でて くすぐって

断面に映る穢れと綺麗 メビウス


乳白をしたたらせ


発火への焦がれ を 何度も重ねて


瞳孔の奥へ侵入 額の奥 焼いて


君の首元へ辿る運命を巻きつけた くすくす笑う 諦めて る よなもの 空き缶に詰めた煙草の煙が充満したら 始めたい


(始めたい)


鈍麻した舌に果汁の味 君を脱がせて剥いでく 微かに狂暴 が 興奮




お願い、

だから

(永遠に傍に居て)




獣めいて飢え 痩せた体は病巣 それでも それでも それでもって 伸ばした腕を絡める いつかと伏せた瞼を震わせて


仮想を脱ぎ捨てて 汗で濡れた服を着替えても 何度でも君に縛られる 空 の 先



何度でも君を見る

a image

a boy

君はそこに居たはず 凡ての絶望を体内に隠し持ちながら 機会を窺う 冷えた目 乾いた舌

濡らして

君の掻き鳴らす音が宇宙だって (気づけよ)

意味を成さない言葉の群れを書き連ねた紙切れに 頭を垂れて君 は 眠れない夜をやり過ごす


悲しい星の声に耳を傾け

飲み干した藍色のペンキ

魂をスライスした夜の断面





ま白い腕

噛んで みなよ


ほら


瞬く間に


裸足のまま


宙に浮く


編み物

  鈴木歯車

あなたはある日から編み物に熱を入れはじめた
はじめ一本だった糸を、互い違いに名前を付けて、
それらで淡々と、まぐわいを繰り返すことがたまらないのと
笑っていた 
ひどく静かに

実はあなたを黒い淵から救い出すつもりだった
ぼくは編まれたものを 
ハサミで引き裂いたりもした
事実、かぎりない交配の果てに
生まれたものは化け物ではなく
おびただしい数の ただの赤い毛糸の衣類だったのに

何がそんなに恐ろしいの、とあなたは言った
そんな話が持ち上がるたび ぼくらは殴り合ったりもした
何が恐ろしいのかはとうとう分からなかったし
こんな季節に赤いセーターなんて
狂っているのか、

ぼくがその部屋をこっそり出て行ってから数年が経った
逃げるように職と住所を転々としているから
友達のいないまま暮らすのには慣れたが、
部屋がいつまで経っても片付かないのは何でだろう?
そういやあの編み物はどこにしまっていたんだ
埃一つ無い モデルルームのような1LDKだった気がする
ぼくが結局着なかったやつらは一体どこへ?

(たとえば皆のパラメータが多角形で現れたりする
様々な図形のなかで ぼくらは
凹んだ部分をみがき続けることで現れた空間の 
何ともいえない鋭さについて誇っていたのだ
そして意味の分からない動作を
おはようからおやすみまで繰り返すあなたを何と思っていたか、
今はもう思い出せない)

今日も妙な夢を見た
赤い糸があなたの小指から出てきて
ぼくのうなじにじゅくじゅくと寄生していく
あなたとひとつになってしまわぬように ぼくはどこかへ走り出す
ただそんな夢だった

あなたは今でも あの清潔すぎる部屋で
誰にあげることも叶わない帽子を捨てずに
洗い続けているのだろうか
自分以外の痛みには鈍感な性分だったから、
いつか訳の分からない どす黒い毛玉になり果てても、
あなたは帽子やらセーターやらを
洗濯機で あらあらしく洗った後
それでも消えない一抹の赤色に
心臓に近い形の愛を見出して
静かに笑っているのだろうか
肌寒い部屋の中で いつまでも いつまでも


a

  湯煙




radical
colorful
political

  
  深夜ジュラルミンライトの照射をくぐり
  遠く少女をめがけた花束を撒き散らして
  動物園の出入り口を開き会議室を封鎖し
  子供達の風船のための火炎瓶を握りしめ

            床にたたずむ
            尻尾を垂れた 


     清掃人が
       夜明けの片隅をみつめている


小羊のメアリーちゃん。

  田中宏輔



 ぼくの机の真ん中の引き出しから、なんかまちがってるんじゃないのというような顔をしてまっすぐにぼくの顔を見つめてくる小羊のメアリーちゃん。かわいい。


乱反射していた。

  黒羽 黎斗

棍棒が横殴りに吹っ飛ばした吐き気の残る振動の中で
海の泡がチラリとこめかみを通り過ぎて、空の残滓が眼底に穴を開けていました。
それでいて
シャープペンシルを持っていた右手が
数IIの教科書を抑えていた左手が
ブラブラと辿り着けるはずもない旅と共に文字となった。

たった、5秒前

ひっきりなしに繰り返される単語と
ひっきりなしに繰り返される話題と
てんでバラバラな天井を収束したはずの網目模様にも見えた時間の経過
と、
新たに生まれた二点間の直線的な虚無
は、
貫くべき心臓を間違えていたって確認して、
また森羅万象とかいう言葉を使ったままにホールケーキを食い荒らしていた。

たった、5秒前

円に巻き込まれているはずの振り子がまた、二次元とやらに催促している。
メモ帳にはこう書き残していたはずだが忘れた。
犬が犬を間違えて人となるような意味を見いだせない低俗な彗星に身を任せていた。
煙草と排気ガスの匂いの区別もつかないんだから救えないのであって、
それでいて裏庭の雑草の始末を忘れているのが普通だって言うのだから笑ってしまった。
蛇にだって足が生えることがあるし、頭に毛が生えたっていい。
対面していたはずの未知がうっすらと光を帯びていた。はずだった。

たった、5秒前

汚いと言える身ではないのだが
遠い日の出と同じ色をしていることを柔らかな曲線の一部と数えていたのだから、
混じっていた、直角に曲がって鈍角に曲がってようやく辿り着いていた。
左手は日の入り前の紫色であったが右手は眩んでいた。

蝶を飼っていた。
似合わない若さを纏っていた。
食べたいと思わせておきながら臭い薬味ばかりだ。


訪れた
瞬き、と、停止。

圧縮と、吸引の、
繰り返し、を
受け入れていた
あの、瞬きが
垂れ流しになってしまった。


リクリエーション

  ゆうみ

わりと巨大な黒い折り紙
始発の路面電車に切られてく
ジョキジョキ

醒めたまなこの猫が
酔いどれを疎んじて
処女信仰者を呪った副委員長が
母親になだめられて
暇をぶっ潰した中年女性が
ブラをなぜか腰に巻いて

J-POPのヒット曲を絶唱する権利が
やっと中年男性から園児に受け渡された
「いいじゃん、たかが陰毛くらい」
娘は修学旅行へ 母はトイレへ


めざめ

  左部右人

またたきを、ひとつ

捉えがたい欲動に追われ、
日々は、擦り減った寝床のように
たるんでいる。
台所の汚物に群れる
こばえの
愛おしいこと
やがて、私の寝室に
いっぴき、またいっぴきと、
このたるみに向かって
群れている。

嗚呼、時計は
刻んで(のどが渇くと)
刻んで(水道水を飲んで)
刻んで(はらをくだす)
長針を親指で回す頃には
「わたしはこばえにうもれていました」

またたきを、ひとつ

捉えがたい欲情に溺れ、
日々を、ねちっこい唾液のように
からめていく。
散乱した服を掻き分けるように、
いつまでも溺れていた。
……。(「……」)
……。(「……」)
(こうしておともだちがまたひとりまたひとりとへるひびです)

いつかまたたいている間に、
日々はめまぐるしい速さで
変遷を遂げ、
循環し、
またいつも通りの
めざめを迎える。

寝ぼけまなこで
めをこすり
こばえがうるさいと、
またたきをする。


恒転

  曇天十也




ジリジリ 陽炎
ジリジリ 陽炎
やあ、おはよう
明けない夜はないからさ
来てほしくない朝も来ちゃうの

ポツポツ 雨垂れ
ポツポツ 雨垂れ
やあ、おはよう
止まない雨もないんだって
みんなは雨が嫌いなの

クルクル 風車
クルクル 風車
やあ、おはよう
風はどこから来るんだろう
じーじは元気にしてるかな

回れよ回れ
止めたくても止まらないもの
浮かべよ浮かべ
流れに身を預けて進めるもの
振るえよ揺れよ
キョウシンしようよ

プルプル
プルプル
やあ、
変わらないって素敵なの
あなたは変わってしまったの


草原で

  右左

まどろみのうちに
突然! 草原が立ちあらわれ
ぼくは飛び起きた
子供のころの鮮明な記憶だ
幼い想像力でつくりだす草原はとても陳腐で
ぼくは丈高い草叢のなかに寝転び青空を眺めていた
ぼくの肉体はみるみる風化して
白骨化し、風にあおられて散った
無数の骨の欠片となったぼくは
この草原が地球全域であるかのように天から見渡した
目覚めたぼくはどきどきしていた
それは死に対する恐怖ではなく
むしろ憧憬であった
あれから二〇年だか三〇年だか
その希死念慮がいまだに抜けない
まだ人の手の及ばない大地のなかで
息を吹きかけられるようにたおれたい


拝啓砂澤ビッキ様

  まひる

漆黒に浮かんでいると自分の輪郭を探すので精一杯
山の稜線をなぞる拙い想像力。
輪郭を浮き彫りしたいと思った10代の自分は
いつのまにかを通り過ぎて行って。
ただ、ふいに拾い集めてしまう、ゴミにしか見えない
いや、石なのかもしれない、それ。
それは先ほど述べたとおりのモノで、
それを夜な夜なノミで削る。
でも一人じゃ完成しない、だから、
誰かの優しさや、厳しさが削り落としてくれる
自分らしさと言う幻想を。
最近はっきりしはじめた私の体はまた、誰かの輪郭に
ノミをいれる。それは終わらない。
そうありたいね、ビッキさん。


耳をピンと立てた君は大きくなった

  空丸

いつも遺影を気にする私にはもう飽きた。壁に飾る絵画は見つかりましたか。もうすぐ終電です。地平性の向こうはどうでもいい。あの頃に、栞を挟む。なぜ、訳を訊きたがるのですか。遠くの雪解け水を流し込む。海に走る。

地球は回っている。あの人の日記にぼくの名前があった。ぼくは夕暮れにいる。君がなぜ夜中は朝来ると言ったのか。今はもう問いすらぼんやりしている。ただ、生きることは闘うことと言い返した気がする。日が沈むまでには道を開けてくれ。

死ぬのは面倒くさい。遠く戸を叩く。みんないつもの通りだが、爪切りとSEX、どちらが多いのだろうか。訊く気もしない軍事的重ね着。舞台にはピアノが一台。終わった後なのか、始まる前なのか。いいpositionだ。

耳をピンと立てた君は大きくなった。人生は語るものではない月見酒。電子タバコはKissに転化するか。引きずってはいない。朝が早すぎるのだ。ぼくの日記にもあの人の名前がある。あっけなく闘おう。


  山人

目を開けたまんまの
ぬるぬるの
水を切るように泳ぐ生き物
魚になって
川を泳ぐんだ
川面の虫を捕らえて
ぱくりと
岩陰へ潜む
心地よい風は水
液体の風
だから風の摩擦を感じる

あなたは川
繰り広げる歴史と重さを漂わせ
私はあなたの中を泳ぐ
あなたの流れに
摩擦に促され
私はあなたの
水みちを泳ぐ


*


私は気弱な動物にさえなれず
眠ることも許されない魚だ
潮の重さに鱗をはがれながら
私は泳ぐ
瞼は閉じられることなく見開き
形はいつも同一の流線形
立ち止まって考えることもなく
私は泳ぐ
鱗を擦る海水の直喩の肌触り
時折さす海面のまなざし
口から肛門へと流される思考
私は魚だ
魚以外に生きていられなかっただろう


  水漏綾

美術室
香るはずのない
石鹸のにおいを
ざざと降る雨は
背負ってくるのか

肌が湿り
まとわりついている
普段の皮をふやかして
きみのまなざしは
素肌ではなく
モチーフでもない
剥がれ落ちそうな
わたしの
瘡をさしていた

洗い流されて
良い香りがするような
雨は存在を許されない
雨はいつだって
生乾きの古びた
コンクリートの匂いで
そこにあるものです



ああ
望まないはれがくる
わたしを照りつけるな
わたしを照りつけるな
わたしを
わたしをっ
見ないでください



雨は明らかにした
死んで骨になるうつくしさを
他愛もなく生ぬるいやさしさを
ともすれば激情のいやらしさを

油が跳ねる、
焼きつけられたことで
存在を許された
うつくしいわたし


貝殻の秘愛

  ゴロキ

冬に届けたあなたへの愛の言葉
追憶はあなたとの対話に変えられてわたしの前に立ちはだかる

残月の夜明けに海が光り水が青く呻く頃
ふたりして歩いた洞窟でわたしたちは貝殻に
秘愛をこめて特別な徴を描いた
洞窟のなかであなたは腕をさしあげて白く震えていた
そしてわたしは貝殻をかき集め永遠の愛をあなたに誓った

あなたは今も覚えているだろうか

わたしの心の底に打つ音があなたに聴かせた愛の言葉を
あなたの想いあふれるばかりの菫色の眼にわたしが火と燃え
頸筋を愛撫して纏っていた時の胸の鼓動の高鳴りは
紫色の貝殻に印されている
絹のようなあなたの睫毛のあいだを漏れて
黒ぐろとして流れてくる流し眼も
天鵞絨のごとく波打ち煌めく緑髪も
あなたの眩しい胸を飾る縺毛も
桜色の貝殻には描かれている

白い肌の露わなあなたよ
その肢体の美しさ、それは蒼白い濡れた葉むらのように
若々しく古代の色彩を帯びていた
美しい耳と、ときおり朱に染まるうなじも白色の貝殻は知っている

貝殻よ、お前にはわたしの愛の徴が刻まれ、消えることはない

窓に映る冷たい雪景色
外には吹雪の霧しか見えない

あなたの記憶と住処のなかでわたしは生きている
その愛は美が風の塵となるその時まで消えることはない
あなたを待つことの驚愕、それはあらゆる嘆きを飽きさせてしまう
愛の深さよ

わたしは神に祈る
海の岸辺に建てられた家でわたしを目覚めさせるあなたの足音を聴くこと
それだけを


目さえない青

  いけだうし。

あの日

目、さえ、ない夜。星もないと信じきっていた

まっしろな画面が
月もない街が、黙れと言って……
街を歩いていった。

慰みがなくて、終電を見送った。カフェの外は文学に包囲されていた。
空を飛ぼうとして、そうするしかなくて、助走をつけて派手にこけた、すると落ちるように混ざった
セックスのように溶けあい、街を隅々まで把握し、そのかたさと、儚さを知った。

青い夜。星、月。
そこになかったそういうものに抱かれたかったのだと思う。
カフェで、充電器が落ちて、鳴る。

目がなかったから、
手を繋いで、
純粋も醜さもなく、
ただそのうまくいかない焦りや 抗いようのない快感 愛していると言うささやき
うまくいかないなりに丁寧に丁寧に愛撫した。
逸るのは無駄だと、
辛抱強く拒み、拒み、朝を待とうとした。
つまり、受け入れてくれた。

なんども射精するように、夜の闇は広がり、

ようやく落ち着いて、また
丁寧に愛撫を重ねた。

混ざり合い、
また、行為を体感して、
結局見えないくせに見えたふりをする。そうして生きている。
そういう矛盾が閉じた、どうしようもない空間に満たされたかった
世界一重要な、蜃気楼が見えた。

つまり、なりふりかまったのだ。混ざりたくて、

目さえないから、この街の空にはない、星に感じている、
息さえできないから、空を、晴れへ通しに、街灯へ、石を蹴るのだ

熱帯的ねちっこい太陽は大嫌いだし、
こんな人間的ねちっこい夜も大嫌いだが、
そのいずれかに、もしくは両方に 変化が通り過ぎていくのは、感じた。

まっしろな夜空が
星がないのに、と
空笑いと一緒に、街を闊歩する。


日記の詩

  霜田明

1.

無性に日記が書きたくなることがある
自分の大きさを確かめたくなるとき

人の言葉をきっかけに反感や不安が起こり
しかしふと冷静になって感情から身を離してみたとき

日記を読み返すことほど卑小な時間はなくて
一月経った頃破り捨ててしまう

過去は雨水のように棄てられていかない
棄てられてほしいという願望が影のようについてくる

2.

ひとの言葉について
考えながら帰った

真実が存在しないのならば
言葉の威力の理由はどこにあるのだろう

友部正人の歌の詞をときどき読み返す
他の歌手に比して一人だけ飛び抜けている

似たようなものと見なされているものの中に
飛び抜けたものを見つけるとなぜだか無性に恐ろしくなってしまう

1.

他人の不幸がなにげない顔でやってきて
部屋の隅に腰掛ける

不幸ですか?と聞くと不幸ですという
でもあなたはどうですか?と聞き返してくれないから

僕と不幸との関係は発展しない

2.

もっと、もっと、なんだよ
君が何かを成そうとしているならば

「良い」と見なせるものなんて
この世にいくらでもある

それでもこの世に背を向けたくなって
あれもこれも駄目だとさえ言いたくなるんじゃないのか

「良さ」なんかでは終われない
もっと、もっと、もっと、なんだ

1.

ありがとうと
どうもありがとうの違いはなんだろう

2.

すべての笑いは笑ってくださいという他者のメッセージに
無意識が応えようとする働きに由来する

存在は共鳴になれない
共鳴へのあこがれが表現を生む

失敗を笑う現象さえ失敗を笑ってあげようという
ある種の歩み寄りによって生まれている

3.

美しい女が抱きたいんじゃなくて
美しい女を抱く男に嫉妬しているんだ

嫉妬を引き算できるならば
残った価値はちょうど0になる

引き算を強いて諦めてでも持続する、
それが男性というものの根源だ


てんごく

  水漏綾

深いしじまに身を寄せて
寒がっていた、東京
日々は逡巡して
歩きだそうとはせず
身近にいてくれたのは
すこし汚い、やさしさです

生はどうだと
ひとは問うけれども
死ぬことが痛いことなのは
とうの昔で
ランドセルが赤黒の二色から
カラフルに選べるように
なったことと大差なく

敬虔なクリスチャンの
メダイは白い素肌の
上に身を潜め
草臥れたホームレスの
ねがいは黒い地肌の
下に身を潜めた

わたしは
知らないことが
美しいことだと
勘違いを重ねていく

あなたは
虫歯がひどく痛むときは
きまって星が綺麗だと
てんごくみたいな、ことをいった。


赤い口紅

  コテ

君のような銀色の雨が降っているよ。え傘?浮気ではない、インタラクティブな魂の活動(陽性)よ。
それに、愛らしげな利害のリカオンに君は何と一意に戯れ、荒く、あでやかでありあなたは、これのように、切なく鳴いているのかね。俺は一向に問題を定義しない海と共に、お前にも反逆し、愛のない愛へ、熱意を取りに行くよ。人の気持ちを信頼し、豚のような肌色の町から自分を追い出すよ。も、ついてくるな。
云うておきたいのは、私が君の言う君の過去へもっとも、かわいく焼きもちを妬いたりしないのは、物足りないからでは無い、それはね、男は果がうずいて、重力といったものが言葉の音階へ誘っているからで、あなたを傷付けてしまうのは私が鈍いからではなく、故に自由だからです。ホラ、証拠として私たちの魚はすいすい泳いでけものに汚染されずあります。その為に花の嘘つきにもなりますから。
ビールを呑みその、あけすけの気持ちは、私は戸にファン・ゴッホとチェキを貼り付け、あなたに突き出し、私は私を高尚に彩り、塗り込めた、後に転ばされ、ああ、そう今もサーベイの紺色の椅子のかなしは依然としている。あなたは雷雨に鼻をうずめる。咲(さ)あ今日は麻婆豆腐だ、食べよう。ミンチ肉の私は栄養を取る。咲あ呪いをかけよう、弱いものから、500℃の太陽に手を伸ばし這う、姿のエロティックに対して私は栄養をとり、一緒に青空を見ようで、軽蔑を与えられ、よく食べ、それに何も奪われず木の花になり。そして太陽が登る日、この目の握力計から耐水性のかなしみを沢山滴らせるんや、尿意が紅の淡い隙間に鳥の鳴き声と。そう、反逆をして、この夢を見るには石鹸とガスマスクとアルコールが要るので、おっかない姿をしている、暗い夜にはもう怖いほど。あ、ガスマスクをした為の、女に惚れるか惚れないかと、そんな瞬間もない時は柔らかく劣る粒の種の様やよ。今は未来を告知する灰色の実想う。孩児をな三日で取られたから復讐してやろうと思った。死のうとな。でもな心配せんとって。区役所に行くだけでな人生には勝てるから。例えばあなたを私から忘れさせるとしても、愛がその淡さで一筋の落ちたそらを、雲の如くにおわりに10年を、なら早く走って冷たき風を。こう、噂で君の離婚を聞いた。今も君が欲しいよ、あん、もう伝わることは無い。

文学極道

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