#目次

最新情報


選出作品

作品 - 20190727_232_11346p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


そらの椅子

  帆場蔵人

その椅子はどこにあるのですか?

木製のベンチに根ざしたみたいな
ひょろ長い老人にたずねると
そら、にとぽつり言葉を置いて
眼球をぐるり、と回して黙りこむ

そら、空、いや宇宙だろうか
その椅子に誰が座るのだろう
とても永いあいだ空だという

その椅子に、誰が座るのだろう
あまりにも晴れ渡る空を眺めて
様々な言葉をその椅子に座らせてみたが
雲という雲が流れてきてすっかりそれを
隠してしまうのだ

その椅子にいったい
誰が座っていたというのだろう

ひょろ長い老人の微笑む皺のなか
その誰かがひょい、と顔をだしはしないか
老人の愛した誰かだろうか?
あるいは憎んだ誰かだろうか?

それとも、それとも、それとも……

話してないことも話したことも
あの皺には刻まれているだろう

その数だけ椅子があらゆる形や大きさ
重さでふわふわと漂っていて、やがて
そこにはぼくもひょろ長い老人もいて

椅子は椅子としてあらゆるものを
受け入れながら雲のように形を変えて
皆んな誰かの記憶のなか

そらの椅子に腰かけ漂っている

文学極道

Copyright © BUNGAKU GOKUDOU. All rights reserved.