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作品 - 20190717_079_11322p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


波の抜け殻

  あおばかげ

いちめんに
波の抜け殻が横たわっていて
かつて海だった腹が
おもむろに開かれた国道は
やっと生き者だけが通れる狭さ

手をたずさえて
歴史になっていく景色を
松屋を食べに歩いた
信号機は赤を嫌って
そのうち植物のようになって
私たちを影の下に置き
何のサインも持たずに待たせる
こともできるようになる

鏡の光沢によって
私の薄暗い顔は歪むので
前髪がそよぐたびに
居心地の悪い汗がよぎる
こめかみに誘われた蚊に
耳元で囁かれることに慣れた頃
血を吸われた項に
意識をとられて

大きくなって
飛べなくなくなった生き者のために
大空になった席をいくつも
あたためておきたい
いつか海のなくなった日の
詳しい地図に載るように

彼女は道を通るため
生き者になった
積もり積もった不運の上に
咲き初めた何かの因果も
甘く熟れて食べられるまで
意味を持たない
と言って両目を撫でるように
まばたきをしたあと

青く光っている小さな空の無数の重なり
の中で一つの地層に過ぎなかった
私たち
の捨てた
紙や油にもいつか
たくさんの流れがしみ込んで
地表への水路となり川となり
あたらしい波の成育を待ち望んだ
幼い海の藻屑となる

文学極道

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