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作品 - 20190518_036_11220p

  • [佳]  発信 - 山人  (2019-05)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


発信

  山人


人々はどこに向かうのか
それぞれが口を結び、皮膚の下の血液は静かに流れていた
生きるために日々を送るのではなく
どんな死にざまをするかのために
人は歩いていた

現実の平面に立ち、日々を送る
ふくよかに肥った現実はとても強固だ
その硬さを
水が、石を摩耗させるように
ゆっくりと時間とともに
ひたむきに念ずることで硬さは溶け出してゆく

*

古い映画に出てくるような、町の一角の公園のベンチには
Yシャツの袖をまくり、静かに清涼飲料水を飲む男がいる
足を軽く組み、いくぶん右側に重心が傾けられ
左手をベンチの隅に立てている
清涼飲料水が空になると、男はまっすぐ座り
呪文のように独り言を言い始めた
表情を変えることもなく、淡々と同じ抑揚で唱えている
口から放たれた言葉は自由だ
発せられた言葉は、空間で凝固し
やがて小石のように地面に落下した
砂粒の少し大きいくらいの石粒が地面に落ちている

              *


それにしても、神たちは多く居るものだ
神の数すら誰も知らないが、人の数ほどいるのかもしれない
それほど多い神は、日々無碍に過ごし
如何なるところにも佇み漂っている
公園の滑り台や、道路のガードロープに
それぞれおもいおもいの座り方ですわり
特殊効果のように奇怪な動きをし
わざとらしく衣服を風になびかせている
神は働きたがっているようだ
時間は穏やかに停止され
小さな神たちが一心不乱に
男の吐き出した言葉の石粒を籠に入れている
小さく風が吹くと
有翅昆虫のように空中へ飛散し始めた


砂漠の中のひとつぶの砂のような奇蹟
可能性に向けて自由を得た
どこか知らない宇宙の一片に
動力があるとすれば
それは神たちのコロニーなのか母なのか
あらゆる物が攪拌され
やがて光が生まれ出る
              



とある日
公園のベンチにあの男はふたたび座っている
携帯が鳴ると男は礼を言い
穏やかに口元から一つの言葉が発せられた

男はずいぶん老いてしまっていた。

文学極道

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