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2019年05月分

月間優良作品 (投稿日時順)

次点佳作 (投稿日時順)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


葵橋

  田中宏輔



真夜中、夜の川
川面に突き出た瀬岩を
躱しかわしながら
ぼくの死体が流れていく
足裏をくすぐる魚たち
手に、肩に、脇に、背に、尻に
触れては離れ、触れては離れていく
この川に流れるものたち
朽ち木につつかれて、枯れ葉を追い
つぎからつぎに石橋の下を潜り抜けていく
冷たくなったぼくの死体よ
木の切れ端に、枯れ草、枯れ葉が
水屑に、芥に、縺れほつれしながら、流れていく
冷たくなったぼくの死体が、流れていく
ぼくの死体よ
絶え間なく流れる水
岸辺に、瀬に、囀る水の流れ
うねり紆りしながら
月の光を翻し、星の光をひるがえし
流れに流れていく、水の流れ
水面に繋がれたさまざまな光の点綴が
ぼくの目を弄しながら流れていく
水面に靡く、窓明かり、軒灯り、街灯の
滲み煌く輝き、ほくる眺め
揺蕩う、映し身
ぼくの死体よ
冷たくなったぼくの死体よ
おまえを追って
いまひとり

ぼくはまた葵橋の上から身を投げた






  躱しかわしながら            かわしかわしながら
  水屑に、芥に、縺れほつれ        みくずに、あくたに、もつれほつれ
  囀る                  さえずる
  うねり紆りしながら           うねりくねりしながら
  点綴                  てんてつ 
  靡く                  なびく
  軒灯り                 のきあかり
  揺蕩う                 たゆたう


定時連絡

  屑張




1

あの紙芝居、全部暗記してるんだって。すごいね。簡単な「さんすう」もできないもんね「私」達。急にどうしたの? この世に生きてる「価値」、なくない。えっ? なくない? 急にどしたん()? 「価値」ってなに? えっ? わからない? 笑。そんなもの、どこにもないってことだよ。なにそれ。えっと、「生産性がない」みたいな話やめない? えっ? なにそれ? えっ? えっ? えっ? あっ、やめよ、このはなし、やめない? だれが「よろこぶ」の?えっ? 「よろこば」ないの? えっ? どっち? どっちなんだよ? えっ? どっちでもないの? えっ、じゃあ、なんなの? えっ、えっ、えっと...じゃあ、負けた方が負けってことで、ちっとも役に立たない役人風情が




2

ありえないよね。ほんとにありえない。マジで引いた。ほんとに何が楽しいんだろうね。ほんと馬鹿。だから早く来いよ馬鹿。




3

・4/4

今日は公園で散歩した。パンクズ散らしてやったら、生簀に閉じ込められた鯛の群れが、荒れたように死体を食べてるから退屈。一生、鳩みたいに暮らせればよかったんだけど。いやいや土鳩も楽じゃないんだよ。まったく、脳みそなんてあるからいけないんだわ。卑屈。億劫。臆病なオオカミでありたい。ウサギの方がましかな? それは、ウサギに失礼。オオカミにも失礼。謝って。いいから謝って。適当に重ねて、すいませんて謝りなさい。生きているだけなのに、全ての合わせ鏡みたいに使われるのなんてかわいそう。〜みたい。なんて適当に引き合いに出さない方がいいよ。太陽と月なんて、何回殺されたとおもってんの? じゃあ、何を信じればいいんでしょうか? だって! 空とか、雲とか、えーと後は、割り切って飼い主になればいいんだよ。ただし、最後までちゃんと食べること。

ps. 生きてるって感じがしたっていう感想を書いて提出!月末までに!!




4

あたしっていうだけでおんなになれるならあたしなんていらないわけだけど結果的にあたしって言い方は必要だし「僕は」って言い方もひつようだよねってかパンツってめんどくさいよね菌が繁栄しちゃうしねつーかだったら線香でもなんでも焚けばいいんだよ。




5

三十路になると死語が増える。もう、言えなくなってしまった事の方が多くて。言われたら訴えるしかないよ。タイで去勢した事はバラされたくない。みんなが見た目で知ってるからって関係ない。手っ取り早い話、英語や、フランス語とか使って、秘密裏に、皮肉の通じあえる程度のユーモアで弄ってくれればよくない? 皮肉って頭良くないと使い切れないんだよね。馬鹿は馬鹿だから馬鹿ばっかりなんだよ。いやだから、馬鹿っていう方が馬鹿なんだよ。だれが馬鹿だって保証するの? 馬鹿が馬鹿であるとかなんとか保証するだとかくだらない事考えてるって時点でもう馬鹿なんだよ。ほんとに馬鹿ばっかり。

追補(お前の方が馬鹿だよ^_^)





6

例えば、誰がこれを書いているんでしょうね。きっと「こんなもの誰も書いていないよ」っていう事実が証明されることの方が望ましくて、眩しい。そんな、ゲロまみれの首にマフラーをかけてあげるくらい、抱擁の手本であり続けてくだひゃい。

...酔っ払ってんの? そうかもしれない。きっとそうかもしれない...そうあってほしい...でないと...

でないと? ...なんでもない...なんでもないから......このはなしはやめましょう...会話になってないから...最初からじゃない?...最初からなんだ......めんどくさいやつだとずっと思ってたよ....お互いにね....あなたの書いた日記なんて、読みたくないんだよ。

どうせつまらないんだから。とは言ってくれない。本当はちがうんだよ。面白いんだよ。とは言ってくれる。





7

最初から解説します。この文章に大した意味はないです。1から6まで会社の昼休みにコツコツ書きました。なぜなら暇だったからです。語り手は女の子二人、という想定です。女子高生がいい、という声が急に聞こえてきたので途中から女子高生になりきろうとしました。なぜなら、上司からラインで裏デリでも呼んだら? と言われたからです。価値とか生産性という言葉そのものには意味がありません。ちょっとだけ背のびしようとして、高度な笑。概念に見えそうな単語を弄ろうとして、なにもかも疎通できなくなるコミニケーションを描こうとしました。

それから、何がしたかったのか? という弁明をするためにこの章を書いている、と受け取られることは心外です。これもまた、作品の一部であると、断言できますし、別にここに書かれたことが真実であると、思ってもいません。別にメタ的であるとも思いません。なぜなら、そう思うからです。重たくかんがえなくていいんです。自由に読んでください。





8

ピースに息を吹きかけ
飛び散る乾燥肌の雑種犬
皮膚が蔓延してしまい
鉄土のような炎症を
獅子に添付する蚯蚓
モナドノックの音形に敷かれた
隣席の横綱が
電子書籍の注釈を
日没に蒸して
水の祈りを聞かせる
ひび割れたコインロッカーのテーブル
軽油で走るアキレスが
老化するまで
誰も脇を濡らさなかった
笑い声と
花についたポマードの香りだけが
水についた染みを祝福してくれる
河川敷のバスターミナル
皮に描かれた男の秘所に
むさぼりつく蛆虫達
空に点火した
天井のサンダル





9

おにぃさんこっちおいで
マッサージしてあげるよ
ほんとにぃ?
まじぃ?

嬢にライターで、覚えたてのタバコに火をつけてもらった。気がついたら5万払ってた。ちくしょー。後輩は奢られるためにそんざいしているらしい。しかも、これからおっパブに行きたいらしい。全部で5人。マジかよー。夏のボーナスって何?

ブスとかブサイクとかどうでもいいから。マジで。マジで金くれよ。お前らの為に働いてる訳じゃねぇんだよ。お前、これで明日会社やめまーすとか言ったら地の果てまで追ってやるからなコラ




10

1995/4/4(火)

東京都世田谷区で、路線バス1台と乗用車車2台が絡み合い、歩行者を含めた10人が死亡した事故で、警視庁は、自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致傷)容疑で乗用車を運転していた20代男性を現行犯逮捕した。男性の話によれば、運転中に意識が飛び、右半身が痺れてブレーキを踏むことができなかったという。

10

人を殺すことって、簡単だよね。人を愛するくらいに難しいよね。...あなた、適当にいってるでしょ。だから全てにおいて発言が軽いの。そんでもって暗いの。人を適当に傷つけたり、傷つけられたり、空気読めなかったり、気取ったふりして、それができてないの、全体的に軽くみえるからでしょ。いやいや、重たい人なんてどこにもいないよ。重たいように見えるだけ。涼しげにみえるだけ。飄々としてるように見えるだけ。いやいや、軽いとか重たいとか、分かってないでしょ。本当に、全てが、傷つかないのであれば、溢れる砂つぶの方が、ずっと素直だよ。人を殺せば謎が生まれるでしょ。謎があれば、動機がかけるでしょ。動機があれば、必然も運命もあり得るでしょ。そういう風に見えるでしょ。心不全で死ぬわけじゃないんだよ。天国や地獄なんて本当にあると思ってる? あるんだよ。実際には。そんなものどこにもないのにね。


軽いの反対は重たいではないんだよ。





11

だれですか、こんなデタラメな記事を書いたの。死者を侮辱する行為、本当は何もしていない人達や、本当に何かしでかしてしまった人達、そういうことに対して感心のある人達、もしくはない人達、生きている人達、今死んでいく人達、生きているくまさん、ねこちゃん、わんた、くまぞう、コイキング、メノクラゲ、ハッサム、ジバニャン、雪女、猫娘、カッパのくぅ、コメディウルフ...



12

流れからして、ここらへんでお茶にごすような文章を挿入すべき

まじで言ってんの?

まじって、何さ

なんだろね

まじがまじであったこと、どれくらいあったんだろう。ってめんどくさいことかんがえてるから、いつまでたってもまじはまじにならない。ほんきのまじなんていらないんだよ。


12

小さな日本の小さな出来事の一つ一つに興奮しているみなさん。世界のこと何も知らないのに知った気になっているみなさん。おはようございます。日本のこと何も知らないみなさん。世界のことなんでも知っているみなさん。知っていることを知っているみなさん。知っていることをしらないみなさん。知っていないことをしらないみなさん。知っていないことをしらないみなさん。知っていることをしらない事を知っているみなさん。あなたどうですか? わたしはどうでしょうか。べつにどうだっていいんでしょう。どうでもいいってことが真実なんでしょう。色々と腐ってますね。ほんと馬鹿ばっかり。でも、美味しいよ。たべてみない?

12

あなた、役人って知ってる?

あなたは役人をどう知ってる?

わたしは公務員だってこと、ちゃんとわかってる




13

着想めも(読まなくても全然いいよ!)

お腹がとっても苦しくなってしまって、いつのまにか体重10キロ増加!! 隠れてお菓子なんか食べてるからだって、医者に怒られてしまったんです。でも、食べないとやっていけませんし。

*1 昔、公園でオリジナルの紙芝居を読んでくれたーみたいな老人がいたと思うんですけど、その人達がどういう思いで子供達に読み聞かせていたのか、よくわからなくて、つまり、そこから全て始まったんです

*2 これは実際の上司に言われた言葉。仕事場では馬鹿キャラで通ってるんです。簡単に言うと非常識って認識された人間から干されてくってことがいいたくて

*3 正しく生きねばならないみたいな人達に怒られた思い出をばねにして書きました。うるせー

*4 適当に女や男になりたがるけど別になりたいわけでもないし、そもそも男とか女の子ってなんなん?って思いながら書きました

*5 年とかあんまり関係ないことを書こうと思いました

*6 そろそろだれが何を書いているのか気になってしまったので、衝動的に書いてしまいました。今ではとても反省しています(ほんとはしてないだろこいつ)

*7 スタンスの表明みたいな感じ。これ書いといた方が読みやすくなるかなと思って。それ以外の他意はありません。なんつーか、オーディオコメンタリーみたいな。

*8 色々とドン引きされたかなと思ってこれは真面目に書いてるものですよって、言いたくなったので差し込みました。後悔はしてないです。単品でも楽しめる、ってか前後の文脈と殆ど関わりのないものです。これは

*9 半分実話です。

*10 色々なニュースサイトを読んで、嘘の事件を練り上げました。こうして練り上げた嘘の事件を書くという事に対して何を思うのか、という所も合わせて書こうと思いました。

*11 ツッコミを入れようとしたんですけど、よくある事なので、まいっかってなりました。べつに被害者でもなんでもないですし

*12 一生懸命締めようとしたんですけど、だめでした。わたしには才能ないんだなって。あっ、わたしってはじめてつかっちゃいましたね。あはは。最初に提示したテーマに戻るのって大事だとおもいます

*13 上に書いたこと、全部嘘です。というか、ここから始まるんですよね。こう、輪っかになって、繋がるんで。いや、だから、何事も繋がりを求めますから、だから、切断したりするんで、いや、もうそういうのとかありふれてるとおもうんですけど、でも、繋がりすぎると疲れちゃうし、ドン引されてもね、もうここまで、読まれる事もないでしょうけど、長すぎて退屈かもしれませんね、ええ、これから始まる途方も無くない描写、トンネルの向こう側、花嫁と落ち葉、枯れ枝とマグロ、チータラと死化粧、クラゲと曼珠沙華、味噌カツとロブスター、きったりくっついたり、誰が何話してるのかもわからない、興味なんて最初からなかった、ただの打ち込まれた五寸釘で、マフラー縫い付けられて、血を吐いた老婆を前にして、何の手助けもできない、地震が起きても立つ事すら出来ないんですから、火山が噴火してもここは東京都、今、桜島にいたとしてもどの道かわりません。








14

六本木で大麻吸った
所持する事、栽培することはだめなんだってさ
吸うことは別にいいんだって
罪として問われないから
なにそれ
まじくそだよねーっ
ねっーーーーーっっっ!!
抜け殻みたいになってる
自動販売機がおかしくてしょうがないんだ
本当に本当に
つまらないことで笑ってたら
肺が苦しくなってきた
呼吸がちゃんとできなくて
ながい、ながい
夢をみたんだ
終わらない紙芝居を

何千枚とある
こんだけ書いたのに
なに書いたのかわすれちゃった
直訴する必要なんてどこにもない
ただ、釣り銭を引きちぎるように
ポケットにしまいこんだ
選挙速報が
電話ボックスの中に溢れ始めて


春でした

  水漏綾

あなたが混じると
脆い真鍮のような
色なきわたしの声でした

隙のないあなたを
美しいと思った。
そのわけは、
了解し得ない言葉の数々
句拍子忍ばせる語りのうち
どこまで届くのかを
あなたは知っているから

深淵にゆびさす
あなたのまなざしに
飢えて咳き込む春でした


わたしが死んだ夜に。

  田中宏輔



犬が吠える。
わたしに吠える。

わたしの姿など
見えるはずがないのに。

犬が吠える。
わたしに向かって吠える。

犬にだけは
見えるのかもしれない。

おもむろに上昇すると
わたしは二階のベランダに降り立った。

どの部屋も暗かった。
わたしは寝室に目を凝らした。

女が眠っていた。
わたしの男の腕のなかで。

窓ガラスを通り抜けて
わたしはふたりに近づいた。

男の腕を使って
女の首を絞めるために。


わたしらの軌跡(17‐22の頃)

  宮永



紅茶にミルク注ぎ足すように
アッちゅうま濁っていった透明
先が見えないってことが
どれほどわたしらをかき乱すことか
てさぐりでさぐれば
いずれ治る傷も致命傷
大袈裟に血がつたう頭抱え
たどり着かなくてはならないどこか
読めない地図片手に



癒えてきた傷が瘡になりはじめたら
嬉々としてはがし
左手のひらに載せて眺める
これが、わたしらの果実
掘り起こされた傷がいたみを発し
また次の瘡を用意するまで
じくじくと赤を浮かべて傷に
加担したすべてのものたちを憎悪する
その誰よりも自分が嫌い



波打ち際に立てば
足裏の砂が引いていくように
年月はするすると巻き取られ
そこに含まれた
ちょっとかわった化石を眺める
輪郭もおぼろなたよりない生き物が
ぼろぼろの毛布握りしめ
口ぽかりあけた物欲しげな顔のまま
写し取られたかのように見えて
わたしらはさざめく波のようにわらう


精霊探し

  右左

子供のころ、毎日のように、精霊探しをして遊んだ。わたしたちの村にはそういう遊びがあった。いつごろから始まったものなのかはわからない。誰に聞いても、自分は親から教わったと答える。村の長老も同じことを言う。長老の親もそうだったらしい。おそらく、その長老の親の親も、わたしの親が云々と言っていたのだろう。

しかし、この遊びはなんということもない、ただのかくれんぼである。森のなかでかくれんぼすることを、村では精霊探しと呼んでいたのだ。それは、子供を可憐な精霊にたとえた、ひとつの見立てではないかと思われる。そして、精霊なるしゃれた言葉は、たしかにそのあたりの道や学校ではなく、森にこそふさわしいものという気がする。あるいは、いささか暗い想像をすると、精霊とは死霊のことかもしれない。かつて、あの深い森のなかで、子供が行方不明になった。親も、子を探しに出かけて、やはり消えた。こうして、いわば神隠しの謂でつかわれはじめた精霊探しが、いつしか遊戯の名称となった?

だが、誰もそんなことに興味はなかった。みんなとにかく精霊探しがしたかった。森はいつも湿っていて、草葉のにおいが空気に塗りたくられているようだった。目に映る色は、木々の緑より黒がめだった。足元はぬかるんでいて、そうでなければ名前も知らない植物が複雑に絡みあい、よほど注意していないとたびたび転ばされた。怪我だらけ泥だらけになっても、泣く子はほとんどおらず、楽しかった。

大きくなって、わたしたちの次の代が精霊探しをするようになった。わたしや、わたしと同年代の友人たちは、日々の暮らしに手一杯になっている。そんなある日、わたしを含む何人かの予定が合い、森へ行こうという話になった。豪雨の日だったため、子供たちはいなかった。わたしたちも、深入りは危ないと判断し、入口付近をうろうろするに留めた。「だけど、おれたちは、どんな天気でもやったよな。雪でも強風でも……」誰かが言った。それきりわたしたちは無言であった。無数の直線としか見えない猛烈な雨粒が、画面に走るノイズみたいに森の内部を裂いていた。わたしは雨音にまじって精霊の声が聞こえるのではないかと耳を澄ませた。


花のような音楽と

  田中恭平


 
やっと落ち着けて
花のような音楽を聞きながら
水のようになっている

林のなかにいるよう
このやさしい音楽はアメリカ製
あたためられた草のにおいのような
音楽でもあるよ

ペンを眺めている
うつくしいペンを眺めている

定住しているのに
明日も流離うのでしょう
おかしなことでない
ここが借宿に過ぎないのならば

夕暮れの時間
今日は曇って雷鳴までしている
空が
あちらこちらで閃いている
わたしの頭のなかは空っぽ

コンビニエンスストアに入って
エナジー・ドリンクを買って出てきた
出てきた瞬間
蓋を開けた

雨が降ってきて
水のようなわたしは
溶けてしまった
変身願望が
叶えられて
嬉しかった
タオルで首の
辺りを洗った


 


キッチン

  水漏綾

腐りかけたのは
赤いりんご
それが美味しいジャムになる
だからわたしはキッチンが嫌いです

どっちかにしてくれと思う、
嫌いというより、戸惑う、
そうだ、
身の振り方に、困るのだ、
だからわたしはいつも、
キッチンを殺そうとしてしまう

わたしが小学生の時
死んでしまった親戚の
本当の死因を語ったのは
口数の少ない母
その目はわたしを語り
涙を浮かべて思い遣るのだ

その場所はキッチン
わたしは赤を脱いだ
どろどろの甘い黄色を
正義みたいな瓶に詰めなきゃなんない
だからわたしは、キッチンが嫌いです


追憶を燃やし舟を流す夜に

  帆場蔵人

夏の夜に眼を閉じて世間を遠ざける
蚊取り線香の燃えていく匂い

いえ、あれは父が煙草を吸い尽くす音
いえ、あれは兄が穴を掘る遠い音
いえ、あれは舟に乗せた人にふる音

どこに行けばいいの?と尋ねても
背中でしか語らない人たち
祖母に手をひかれて歩きながら
あかい椿を口から出して
ハンカチにくるんだ道は
前へとゆく今日と同じ道

しろい肌に包まれて
果ててゆく道の端にもう
どうしようもないぐらいに
違ってしまったいつかの
毛並みの悪い子の瞳が
転がっているのです

あの人と同じ
形のよい

背にあかい朱をひいて
癒えてはまた傷つけあう

赤児がないた

眼をあければ
爪の形のよさを
燃やしてしまいたい
けれど蚊取り線香は
燃えつきて匂いさえも
さ迷いながら去っていく

煙草はやめて家をでて
私を知らない土地の川で
舟を流す、それは海へ続き
あの日と繋がりながら
よく似た横顔で流れてゆく
あかい椿の刺繍のハンカチ

ふたりのゆびがからみあっては
とかれてまたふかくふかくからみあう
つめになどめをやることはなく


手放しでしあわせになれないヒトたちへ

  アルフ・O




挑発
挑発
また挑発
喩えるならギザ十の山から
いたく了見の狭い
当人にとっては深淵を覗くかの如く
その怯えた眼が
此処からは面白いほど良く視える
(Yes, I'm Flicker,
相討ちで済めばいいのにね。

寸鉄だと思って拵えたそれは
ジークフリードが指で弾いて消し炭になった
崩壊する言語中枢、と、
(馴染まない解読者の睾丸
空間を攀じ登り制圧した蔦が
前から後ろから一斉に開花を迎え
真ん中で拘束されたそれを無限に搾取する
で、反応を再開する言語中枢
(Big crunchからの、Big bang
……あーもう、あなたがたはもはや
エサにすら足りないってさ。
(The things will never be seen anymore,
そしてこの物語が全く求められていないことだって
百も承知と
画面を叩き破り
種の保存を試みるのだ、と

(ボクのミサンドリーを差し引いても
 云えることは唯ひとつ、
 貴様らは吐精する以外に能がない。

 せいぜい、何処やらへの着床を夢見て
 毒を浴び続けるがいい、
             )

空は人間であった頃の記憶
永遠を真っ向から否定しては咲き乱れる信天翁
幾つもの長い長い軌道の果てに掴んだ旗はそのまま
衛生砲の理解を超えて女神の視界に届くほど
その全身を震わせている
時空を超えた恋人の如く。

(どうせお互い無機物であるならば。

砂になれ
マグマになれ、と
統率を失った細胞が次々に喚く
黙って代謝を続けているがおそらく次の雷が限界だろう、
然らば問う
火傷もしない手をいつまで隠し続けるのか
救わないのは果たして誰の咎なのか
(って、マジで聞いてないよねどう見たって。
これが最後、と全員が全員
嘘をつき続けて
幾年経てばきっと
望まれた調和の世界が此処にも、
 

 
 


文学_僕(仮題)

  いけだうし。

終電後のカフェの外は文学に包囲されていた。街の上、ただ白い夜空に登り、曇りを晴らし、ここを廃墟まで粉々に愛し、文学を焼き払い、夜の星と月と青を取り戻したくなった。しかし僕の中のヴィジョンは霞み、ほんとうに欲しかったのはそれだったのか、わからなくなってしまった。しかし、足掻いて、空を飛ぼうとするしかなかった。助走をつけては派手にこけていた。すると文学は僕を抱きとめた。僕は文学とセックスのように溶けあいたかった。手を繋いで、無銭だがラブホに駆け込んだ。純粋も醜さも何もなく、ただそのうまくいかない焦りや、抗いようのない快感、愛していると言うささやきがあった。うまくいかないなりに丁寧に丁寧に愛撫した。はやく挿れたかったが、文学であろうとするそれは、辛抱強く僕を拒み、待った。つまり、受け入れてくれた。僕はなんども独りで射精し、ようやく落ち着いて、また丁寧に愛撫を重ねた。一方それと混ざり合い、一方それと共に行為を見つめる。そういう閉じて、どうしようもない空間に僕は満たされるのだろう。


浜辺

  たこ吉


夏の浜辺でね
死んだような臭いがしていたよ

海の匂いだよ
白い家の
カーテンの揺らぎから
漂って
チリチリ
やけに痛くって

油彩の絵の具を
乾くまで
いつまでも、いつまで重ねてさ
全然乾かないんだよ
白い粉が湿っててさ
眩しくって仕方がない。

あぁ

白い、世界が
白い、白い、


運命の輪が回っていたんだ。
巻貝の螺管が陥没してるのに
狂っているんだ。
おかまいなしに回転している
 


あほになってきえさかる

  屑張



ちの引いたきんにくばかりがならぶ。刃物は祭壇され、歌声は喉から血肉のように溢れる、
確かな歯ならびという概念がある

色々によみとれる
だが、ひとつでしかないそんざいたちが
いみでしかよみとられないよう、
既に役割は決められた、
ひとのかくものは、
常にうたがいようのない存在のようだから、
我輩はここにすんでおるのだよ

ディレクトリの底で実行される
小さな子供達


わたしを橋わたし、
はならびこぼれ
庭(にわ)盛える
エロ本を右手に
ラファエル、
ビニールテープを破く。
残飯を撒いてやれば
日章旗が光を遮る
どこまでも飛翔する
しろい空白

風が、茹で顔でタイルを滑る
退路は阻まれ、
ブランチを駆け回る影法師は
音の響きだけでここに描かれる

ジャムとマーガリンと薄切りの食パンのような
組み合わせは滅んでしまえばいいのに

ただ、影としてそこにあるならば



無意味が、
ようやく包み込んで、くれて、
いい加減日が落ちるようだ、
そろそろ100文字でくらいで
おわろっか

焚き火で
小さな今を引き継ぎ、
薪に乾いた
ほめうたを注げば、
焦げていくのさ
訝しげな眉毛を切り裂き、
鼻を臓物の香りで塞げば、

「大丈夫
「きっと楽になれるよ


(何がだいじょうぶなのか何も分からない、飼い猫が鼠のように増え、燻んだ家を喰い散らかすように)



アバズレのような音の楽しみ方で
キッチンに香り立つ死を調理シテ
歌えばいい
黄泉がえりの唄
貝柱はバラバラに斬られて
さかさまに
皆様方首を吊り
さかしまにもう後がなくなったと
言わんばかりの騙り事をやめても
バター醤油で炒めて
味のないバラッドを歌おう
フォークで指を突いた男が
焦げた携帯電話を握りしめ
新しい男を呼びつける
(焦げた陰茎から光が漏れ始める
(呼ばれた男はその光を口で受け止めなければならない
(Siriの流した涙と同じ味がする
(新しい種がゆうきELの隙間から芽を開かせて

一匹の蛙が猫の死体になって報道された


道すがら

  まひる

すれ違いそうになった老人との距離に
あとどれぐらい生きれるかを図る。
歩幅は、狭く前のめりなのに、
後ろ歩きをしているのだろうか、
南風が吹いて現在地にいたる。
海を探していた。
見上げるとそこは真っ赤な海だったんだけど。
どれだけの人が死んだのか。
すれ違ったはずの老人が呟く
どれくらいの生命が生まれたのか
生意気に言い返す。
春の風が体を突き抜けた。
5月病の社会人と、僕がすれ違う頃にはわかるかな。
海が青いという事実。


春の夕暮

  霜田明

*

僕はシーソーをしている
春には野糞のような重さがある

*

  原発事故が起こった晩
  「責任は私にある」と、
  心のなかで
  はっきりとした言葉で、
  ではないが、
  君も、僕も、
  呟いていた
  その距離、

*

僕は君の方へというよりも
水音のほうへ
  従順なのは [1]
歩いてきたのだ

  歴史的現在に [1]
    アンダースロウされた灰が [1]

*

  昨日、部屋を出ると日射しが強く、
  「こんなに放射線が強くなっている」
  と、心の中でつぶやいていた

*

世界への物質的依存だと考えていたものが
世界への精神的依存だったということに
はっきりと気がついたときの心境を
虫ピンで留めたような
夕暮れ

*

[1]「春の日の夕暮」中原中也


夕焼け

  霜田明

   I

僕は五年前に9980円で買った自転車を漕いで
夕陽の沈み終わった宵の海の中を
きぃきぃ走って行く
遠くの図書館へ行くためだ
その姿が相対化されていく

   II

世界がひどく単純化されていく
僕が今日の割り当て分の欲望を
あの夕陽の中へ埋葬したからだ
今日はその単純化の中で生きる
明日は明日の欲望を生きるのだ

   III

ほら 僕は確かに身体だったじゃないか
人間同士の関係は
性関係に近づくほど本質的なんだ
(夕焼けは回帰以前にいまここに張り付いて離れない)
ほら 僕が未来の性関係の中へ消えていく


ナイフ一振

  黒羽 黎斗

馬でどこかを駆ける時
彼らはただただ幸せでした

目元を見てはいませんでしが
口元を見ていたのは事実でした
尖兵になってしまいたかった
そう言い出した彼らも同じく
知らないままでいたいから
知らないままでいましょうか
溢れ流れ伝うのは
人目を遠ざける業の記し
千度の嘘をついてしまっても
地獄に堕ちたと思えないだろう

映像がそこにはなかったのですが
音も声も無かったのですが
散財されていく感覚を集めていた昨日は
今日を飛ばそうとして失敗しました

ここにある今日に刺されたナイフを抜けず
包丁を買ってくるハメになった

次の朝まで待てないままで
深手を負った今日を背負いもせずに
投げてしまえば軽いまま

明日は彼も馬に乗る
今日は昨日が調子に乗る

ナイフの替えは用意しない
畦道を伝ったいつかの私の鳴き声が
耳に刺さって必要が無いから


方法

  黒髪

方法と言うのにふさわしいのは何か
漁業法とか
工業の方法とか
新しいものはそのように実践される
感情について考えると
内に秘めたる
橋を架ける
向こうにわたる
すなわち
在る者同士をつなぐ
では方法とは何かという問い自体が
幾分かの愁いを帯びて
在ることについては
光の玉を抱きしめるように
新しくかつ落ち着いて
考えられる全ての
自分たちが
考え思うこと
答えがなくともまた間違えようとも
生きているから
ずっと付き合う
消えた心は光る
生まれいずる
何度も確かめる
硬い地面は愛おしいと
そこにしか何もなく
そしてそこに在るものは
単なるモノではなく
不気味さと美しさを与えられるのは
沈黙と静寂の関係に似ているかのように思われる


発信

  山人


人々はどこに向かうのか
それぞれが口を結び、皮膚の下の血液は静かに流れていた
生きるために日々を送るのではなく
どんな死にざまをするかのために
人は歩いていた

現実の平面に立ち、日々を送る
ふくよかに肥った現実はとても強固だ
その硬さを
水が、石を摩耗させるように
ゆっくりと時間とともに
ひたむきに念ずることで硬さは溶け出してゆく

*

古い映画に出てくるような、町の一角の公園のベンチには
Yシャツの袖をまくり、静かに清涼飲料水を飲む男がいる
足を軽く組み、いくぶん右側に重心が傾けられ
左手をベンチの隅に立てている
清涼飲料水が空になると、男はまっすぐ座り
呪文のように独り言を言い始めた
表情を変えることもなく、淡々と同じ抑揚で唱えている
口から放たれた言葉は自由だ
発せられた言葉は、空間で凝固し
やがて小石のように地面に落下した
砂粒の少し大きいくらいの石粒が地面に落ちている

              *


それにしても、神たちは多く居るものだ
神の数すら誰も知らないが、人の数ほどいるのかもしれない
それほど多い神は、日々無碍に過ごし
如何なるところにも佇み漂っている
公園の滑り台や、道路のガードロープに
それぞれおもいおもいの座り方ですわり
特殊効果のように奇怪な動きをし
わざとらしく衣服を風になびかせている
神は働きたがっているようだ
時間は穏やかに停止され
小さな神たちが一心不乱に
男の吐き出した言葉の石粒を籠に入れている
小さく風が吹くと
有翅昆虫のように空中へ飛散し始めた


砂漠の中のひとつぶの砂のような奇蹟
可能性に向けて自由を得た
どこか知らない宇宙の一片に
動力があるとすれば
それは神たちのコロニーなのか母なのか
あらゆる物が攪拌され
やがて光が生まれ出る
              



とある日
公園のベンチにあの男はふたたび座っている
携帯が鳴ると男は礼を言い
穏やかに口元から一つの言葉が発せられた

男はずいぶん老いてしまっていた。


スカートの中は夕暮れ

  泥棒

ドレスを着た男の子が
手をふっている
かわいい弟よ
紅茶が冷めないうちに
ここへおいで
夕暮れは
一瞬で終わるよ、
好きだった人の名前も忘れる頃
スカートが風にゆれるから
毎日を
違う角度で抱きしめなくちゃ
ね、
何を見ても
ほめる人はいて
そういう人を
私は信じることができないな
こぼした紅茶が
そのまま
ビルの向こうまでつながって
夕暮れになるのは
見ていて
とても悲しいかい、
夜になる前に
もっと
悲しいこと教えてあげなくちゃ
ね、


それしかないのだから

  帆場蔵人

おまえの手には
もう半ば潰れた
折鶴が死んでいた

そんな眼で見ないでくれ
だけど、告げなくては
いけないのだ、小さな手よ

おまえの手には死が、ぼくの
手にも死が織り込まれているのだと
あの煙りとなって空にとけていく
手にもそれは織り込まれていたのだ

鶴を、一羽、折ろう
陽が沈むまでに一緒に
鶴を、一羽、折ろう

半ば潰れた折鶴を、手に、祈ろう

すべ、ての
折鶴が
地に落ちる
終わりを
おまえが
信じて
いる
としても
鶴を折ろう


  田中恭平


どれだけ酷いかなんて
聞かなくても知ってるだろ
俺たちは名前のない花
或いはエイリアン
椎間板の形状変化は生活に影響する


来るって言っていたのに
行くって言っていたのに
スマートフォンは雨で濡れていた
記憶を辿って雨から滴して浄化槽へ
俺は歯ブラシで排水口を磨きつづける
神の日がいつ来るか知れないから
おまえさんのように


弱いヤツを狙えよ
持っていないヤツは最初から見切れよ
と男は言った、男は言った、男は言った
と三回言う
ピザが余って
腐臭を出しはじめている
俺は愚かで、変われなくて、利用されるんだろう
付き合うなら賢いひとがいい
コバンザメのように俺に離れる理由はないのさ


労働の放熱が寝室を満たしている
とりかからなくちゃ
でもなんで風景が変わっても
ひとを信頼できないんだろう
吐きそうなくらい
昔はひとが好きだった
今は本のなかの人間が好きだ
考えとでもいうのかな
ひとの考えが好きなのは
肉の温かさがしないからさ
といって今日も肉を求めてしまうんだろう

 


五月の雨

  山人

草や木の葉が雨に濡れている
五月の雨は麓の村を包んでいた
蛙はつぶやくように、りりりと鳴き
アスファルトは黒く光っていた
そうまでして生き物たちは
生きなけばならない生きなければならないと
季節をむさぼる

雨は、
その深部にしみこみたくて
どこか、
スイッチが入れられて
次第に空気が湿り
その細かい霧粒が固まり
落下したいと願ったのだった

雨は平坦な記憶をさらに水平に伸ばし
過去を一枚とびらにしてしまう
その一点に思考が集中するとき
ふとコーヒーの苦みが気になるように
記憶の中に鉄球を落とす

少し、遠くまで歩こう
そう思いかけた時、雨は強くなった
隣人の柿の木が枝打ちされている
のを見ていた
雨はそこにだけ降り積む
誰かが誰かのために
何かが実行されたのだった

雨は降るのをやめなかった
緑も濃くなることをやめなかった
すべては何かのために変わり
なにかを生んでいく

うすれていく光源は
不確かにともされている
無造作に伝達士は言うかもしれない
あたりまえに普通のことばで
その語彙を受けなければならない
一度は解読しなければならないだろう

集落の朝のチャイムが鳴り始めた
今日も食事を摂り、排泄し
歯も磨くだろう
食後の投薬をすませ
背伸びをするかもしれない


選評の雨

  泥棒


あなたが
好きって言葉に
濡れてしまわないように
黒い傘をあげる

あなたは
空の青さを疑って
個性を潰しながら歩いて
ここへ来て

美しい詩集は
閉じられたままでも美しいから
安心してよ
私はあなたが嫌いです

共感の風に
吹き飛ばされて
あなたがいなくなったら
その日が記念日

何も選ばないし
誰にも選ばれない
花になって
あれもこれも切り離すように降る、




























あなたの闇が
誰かにとっては
宝石だよ

文学極道

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