愛郷心が無いわけじゃないけれど
でもどうなんだろう
考える暇も無いままに僕らは出ていく
二度とペンキが塗り替えられることの無い駅前は
剥げて掠れて読めない定休日がずっと並んでいる
読めないから定休日なのかもわからない
わからなかろうが、どうせ入る人はいない
知性と繁栄を昭和に置き忘れてきた
口が半開きな痴呆老人がひとり
蟻よりも遅く歩いている
静止画のような風景で横断歩道の信号が点滅する
地方には何も無い
地方にも昔は有った
県庁所在地でない市でも
白黒写真を見れば羨ましき活気が感じられ息苦しくなる
地方には何も無い
地方にもまだ何か有るのかもしれないが
僕らはもうそれを感じ取ることができない
鈍った触覚を集って揺らす
誰も声を出すことは無い
僕らたとえそれが張りぼてだろうが
目に見える「有る」に集まる蛾の本能
でなければ僕らに繁栄をください
人間は社会的動物です
せめて僕らに社会をください
本能のまま空虚に揺らすやせ細った触覚
生殺しにされる前に
僕らは地方を出ていく
僕らが出ていくことが
地方を惨く撲殺する
反逆者を祟る神は今じゃもう死にぞこない
僕らは強い意志も何も無いまま地方を出ていく
最新情報
選出作品
作品 - 20190320_318_11127p
- [優] 進学や就職 - 渡辺八畳@祝儀敷 (2019-03)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
進学や就職
渡辺八畳@祝儀敷