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作品 - 20190218_885_11079p

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田中のバカヤロー

  鈴木歯車

愛のように気まぐれなさびしさを振り払おうとしたが、考えるのをやめて、また酒を注ぎに行く。病的な愛を、美を、俺はもう否定しない。

洗濯機の脱水機能がここんとこ中途半端だから
「しっかりやってくれよ」とつぶやいた。干し終わって我に返る。
そうだ。こいつには初めから、意思なんて無かったじゃないか、と。

毎日毎日が俺を弱くする。誰もが俺に微小な殺意を持っているみたいだ。
何のことは無い。腹が痛くなるほど聞いた学校のチャイムが、今は目覚ましにすり替わっただけのことだった。
俺が田中の裸を知る前、「深夜に泣きたくなったら聞いてみてくれ。きっと死にたくなるから」と教えてくれたロックバンド、なんて言ったか。名前まで忘れてしまった。
そこらへんを支配しているのは「俺のせい」という、ただ苦いだけのサプリだ。

突拍子もないことばっかりやって、ウケを狙っていた小学5年の俺。でも田中、お前だけはついに心から笑うことは無かったな。なんであのとき不満の一言ももらさなかったんだ。優しすぎるのも、後から苦しむ神経毒なのに。

そんな彼と、何をとち狂ったか、ペッティングをした。夏が終わりかけて、サイレンがうるさかった。

気持ちはよかったが、夜中に無性に死にたくなって、タオルで首を絞めたが、泣きながら目が覚めた。結局そんなものじゃ気絶がいいとこだったな、と。そしてある恐ろしい予感がよぎった。口の軽い田中がばらすかもしれないのだった。

明くる日を境に、毎朝8:30の学校のチャイムはすべてを巻き戻す号令に聞こえ始めた。通ってた学校がクソ田舎にあったから、寝転んだって何もないくらい通学路はきれいだった。それが憎くて憎くてたまらなかった。いっそ気でも狂えたら楽だったろうな。絶対に。何かが乗り移ったように、俺は田中をいじめ始めた。

3年後の中2のときに、田中は首を吊って死んだ。あの日、口に含んだ陰茎を思い出した後、よくやったと思った。お別れ会の後、俺たちは田中の机でポーカーをした。正義ぶった女子が血相変えて「やめてよ!」と怒鳴りこんできたが、俺たちは冷笑した。そういやあいつ殴られてたな。俺は止めなかったけど。恨むなよ田中。俺だって加虐者と被害者のスレスレで死にかかってたんだ。

にしても、なんでお前、もっと早く死ななかったんだろうな。

俺があいつの裸を知る前、「深夜に泣きたくなったら聞いてみてくれ。きっと死にたくなるから」と教えてくれたロックバンド、なんて言ったか。名前まで忘れてしまった。SNSも公式HPも無いから、解散してるのかどうかさえ分かんない、細々と観客3人のライブやってた、あきらめの悪すぎるバカヤローたち、まるでお前みたいだったな。あんなの聞いてちゃ誰だって死んでしまうよ。それにしても思い出せねえな。

なあ田中。

あれ何だったんだよ

教えてくれバカヤロー。

文学極道

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