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作品 - 20190208_722_11057p

  • [佳]  返済 -  (2019-02)

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返済

  

 カリカリとなにか食べ物を食べて、息を潜ませているのは何故か。家には猫以外だれもいないに関わらず。無意識に手を伸ばしたコーヒーカップは空だった。ごくり、と何か飲料を飲み、そのあたたかさに安心していた筈だった。こんなに気が立っているのには理由があるが、よくある話に回収されそうなので書きたくない。冬、冬、冬。幻臭なのか、血のような匂いがして、それからエチルの鼻を刺すような感覚がやってきた。罰が与えられたのだ。しかし何に対しての罰なのかは検討がつかなかった。それほどに罪が多過ぎたからだ。どれだけ免罪符を買おうと、対処不能なほどに。しかし、罪の蓄積がわたしを喜ばせるのは、それは罪を重ねるほど、大人になったような気がしたからだが、考えてみれば子供っぽい発想だった。今、部屋があたたかいのが救いだった。太陽は頂点にある。わたしは太陽が好きだった。目に悪いとわかっていても眺めていた。好きな季語は「日向ぼこ」だ。ちょっとほうけている感覚─センスが好きだった。ある日。身長が175センチあったのに、測ってみるとなぜか173センチしかない。わたしは現在35歳である。なのにもう老化現象がはじまっていた。なぜかわからないけれど、わたしに昔から母親がいなかったのと等しく謎だ。わたしには38歳の妻がいて、たいへんにヒステリックだったけれど、なぜか最近はとてもやさしい。というか普段がしずか過ぎる。全く口をきかないのだった。いつかわたしが飲み会で禁煙中だったのにも関わらず、もらい煙草をしてしまった。それも何本ももらってしまった。帰宅すると匂いでばれて、妻に殴られた。するとわたしの顔が変形してしまった。罰だな、と考えたのになぜか痛みはまったくなかった。痛みは度をこすと痛くなくなるのかも知れない。口の中を砕かれた歯の破片で切って、吐血は妻の顔に噴射された。それ以来だ、彼女が変わってしまったのは。それ以来だ。わたしは変形した顔のまま日々生活を営んでいる。鏡が、我が家の洗面所にしかないのが救いか、人間は鏡がなければ、じぶんの顔が見られないというのは、幸福なことですね。おっと、こうしてノート・パソコンを叩いていると、手の甲に悪魔の顔がひょっこり浮かんだ。わかっています。罪の返済でしょう。なぐられたとき歯は二本抜けて、そのままテーブルのかたすみに、ハンカチをひろげて置いてあった筈だったのに、なくなっていた。今度は小指が消える。パソコンを打っているとき一番わかるのだが、一瞬なぜか小指がふっ、と消える。薬の服薬のし過ぎによる幻視かとも考えたが、今度はタトゥーのように手の甲に悪魔の顔が現れるようになった。次第にうまく歩けなくなった。緊張して力を入れればまっすぐ歩けるのだが、そうでなければ、右足がよれて、どんどん、右の方向に寄っていってしまう。まるで酩酊しているかのように。どれだけ多くの方に「足、どうかしてるの?びっこひいちゃって」と言われたことか。電話が鳴っている。出るべきか、出ないべきか迷う。こんなとき、妻が家にいてくれたら、いいや、妻は今・・・・・・。冬、冬、冬。「最後に何か書き残しておくことはないか?」と云われて、久しぶりに長文を書いた。猫以外誰も家にいないというのは嘘だ。わたしの35年間の罪は清算できないそうである。パソコンの画面がグワングワンと揺れている。彼がさっき、わたしに何を飲ませたのかわからない。我がワイフ。わたしのインスピレーションの泉。正義の比喩。申し訳ない。それできみは生きているのか?はたして言葉を読めるのか?冬、冬、冬。言葉、言葉。言葉。

文学極道

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