好きなもの(2004)
昼より
夜が
愛するより
恋することが
なめるよりかみ砕くことが
カタカナよりひらがなが
降りる駅よりずっと先にある降りない駅の方が
関西弁より東北弁が
太宰治より織田作之助が
文芸よりもアクション映画が
渡哲也より小林旭が
小林旭よりが宍戸錠が
吉永小百合よりも
松原智恵子が好きだ
石原裕次郎なんかきらいだ
ロックより
昭和の歌謡曲が
甘えられるから好きだ
さすらいが
アカシアの雨がやむときが
黒い花びらが
話しかけてくれる唄が
くさくてキザなセリフが
だれよりも飛びぬけた感情が好きだ
つまり愛するってことをまだ知らないし
やさしさはぜんぶ
自己愛にとどまって
どんどんどんどん淀んでいく
たりないのは愛だとさ
あのツラで愛だとよ
恥ずかしくないのか
いちばん受け取りたいのは愛だってよ
どうしろというのだ
どこへいけというのか
いくら困っても
おまえらのところにはぜったいに
いかないいけない
いきたくない
いくら一人一人を信じられても
あつまりはきらいだ
隣人と隣人とがとけ合うなんて信じられない
なにもかもに孤立したい
なにもかもを敵にしてやりたい
サイクロン号でぶっ走りたい
ばか高い詩集をぶらさげた詩人さんよ
あんたたちの本なんて一冊も読みたくない
きらいだ
えらそうな子宮を持った女らよ、
おれは同時にいろんなものを愛することができるのだ
読者よ
天使とはきみたちのことだ
おれはきみたちが好きだ
うそだ
ほんとうはどうだっていい
ただ少しばかりほめられたいだけなのだ
見えない夜明けに向かって
おれのゆめが泣いてる
おれはなによりも
ぶざまでなけれならないのだ
しかしぼくは
ぶざまなぼくよりも
ぶざまなきみが好きだ
新年の手紙(2019)
セイコさんから本の返しにとクッキーを戴く
ぼくはかの女に瀬沼孝彰を貸したんだ
かの女とはあそこ──文藝投稿サイトで知り合って8年になる
そしてオノウエからは年賀状
曰く自転車事故で頭を撲ってしまったという
かの女がかつての同級生で、
いまは雅楽師──クラス会で耳にした──というほか、
ぼくはかの女のことをなにも知らない
なまえ以外のものを得るにはあまりにへだたりがあるということ
禁酒して3ヶ月というのにぼくの腕はまだひきつってる
陸のうえで愉しくやってるmalingererたちみたいに過ごしたいのに
いつまでぽくはふるえていればいいのだろうか
とりあえずセイコさん、ありがとう
オノウエ、どうもありがとう
ぼくらみたいな関係をうまく表せる辞を知ってる?
ただの知人?
それとも古なじみ?
いずれにせよ、ぼくはあたらしい詩を書くつもりだ
そいつが手紙と呼ばれようが、
写真と呼ばれようが、
ぼくにとってはすべてが詩だ
きのう凍てついた看板を工夫が地上へ降ろすとき、
ぼくにはあいにくカメラがなかった
いまでも惜しくおもえてならない
だからぼくはこいつのことを写真と呼ぶことにする
おもわず、みずから反省させてくれるあなたがたのようなひとがいて
ぼくはうれしい、とおもう
安い紅茶でシアナマイドを呑みくだし、
またしても宛名のない手紙をばら蒔いて歩く
あなたがたのように少数のひとびとのために歩く
最新情報
選出作品
作品 - 20190114_170_11002p
- [優] 好きなもの(2004) - 中田満帆 (2019-01)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
好きなもの(2004)
中田満帆