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作品 - 20190101_683_10976p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


陽の埋葬

  田中宏輔



岩隠れ、永遠(とは)に天陰(ひし)けし岩の下蔭に、
──傴僂(せむし)の華が咲いてゐた。

華瓣(はなびら)は手、半ば展(ひら)かれた屍骨(しびと)の手の象(かたち)、
──手の象(かたち)に揺らめく鬼火のやうな蒼白い光。

根は荊髪(おどろがみ)、指先にからみつく屍骨(しびと)の髪の毛、
──土塊(つちくれ)に混じつて零れ落ちる無数の土蜘蛛たち。

芬々(ふんぷん)とむせる甘い馨(かを)り、手燭(てしよく)の中に浮かび上がる土蜘蛛の巣、
──巣袋の傍らに横たはる土竜(もぐら)の屍(しかばね)。

頬に触れると、眼を瞑つたまま、口をひらく、その口の中には、
──羽虫の死骸がぎつしりとつまつてゐた。

隠水(こもりづ)、月の光つづしろふ薄羽蜉蝣(うすばかげろふ)、
──葬(はふ)りのたびごとに葬玉を産卵する岩の端(はな)。

(イハ、ノ、ハナ)

串(くすのき)の嬰兒(みどりご)、袋兒(ふくろご)の唖兒(あじ)、

──わたくしの死んだ妹は、天骨(むまれながら)の、纏足だつた(つた)

生まれたばかりの九つの葬玉、

九つの孔(あな)を塞ぐ。

合葬。

死んだ土竜(もぐら)とともに、わたしは、わたしの、ちひさな妹を、埋葬し(まい、さうし)

古雛(ふるびな)の櫛の欠片に火をともし(ひを、ともし)

蒐(あつ)めた羽虫の死骸を、つぎつぎと、火の中に焼(く)べていつた(、つた)

傴僂(せむし)の華が恋をしてゐる。

死んでしまつた蝦足(えびあし)の妹に恋をしてゐる。

蕊(しべ)をのばして乳粥(ちちかゆ)のやうな精をこぼす。

(コボ、ツ?)

養(ひだ)さむ背傴僂(せくぐせ)。

わたしは傴僂(せむし)。

傴僂(せむし)の華が恋をしてゐる。

死んだ妹に恋をしてゐる。

馬の蹄に踏み砕かれた伏せ甕。

重なりあつた陶片(たうへん)の下闇。

蝸牛の卵たちがつぎつぎと孵(かへ)つてゆく。

蝸牛の卵たちがつぎつぎと孵(かへ)つてゆく。

──これがお前の世界なのだ。
(ゲーテ『ファウスト』第一部、相良守峯訳、罫線加筆)

ああ、苦しい、苦しい。
(ゲーテ『ファウスト』第一部、相良守峯訳)

わたしは傴僂(せむし)。

傴僂(せむし)の華が恋をしてゐる。

死んだ妹に恋をしてゐる。

輪廻に墜ちる釣瓶(つるべ)。

結ばれるまへにほどける紐。

Buddha と呼ばれる粒子(りふし)がある。

わたしは傴僂(せむし)。

傴僂(せむし)の華が恋をしてゐる。

死んだ妹に恋をしてゐる。

ああ、苦しい、苦しい。
(ゲーテ『ファウスト』第一部、相良守峯訳)

あはれなる、わがかうべ、
(ゲーテ『ファウスト』第一部、相良守峯訳、歴史的仮名遣変換)

あやしくも、くるひたり。
(ゲーテ『ファウスト』第一部、相良守峯訳、歴史的仮名遣変換)

あはれなる、わがかうべ、
(ゲーテ『ファウスト』第一部、相良守峯訳、歴史的仮名遣変換)

あやしくも、くるひたり。
(ゲーテ『ファウスト』第一部、相良守峯訳、歴史的仮名遣変換)

り。
(ゲーテ『ファウスト』第一部、相良守峯訳、歴史的仮名遣変換)


(ゲーテ『ファウスト』第一部、相良守峯訳)

文学極道

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