ざくろ
その男はいった、
息子が死んだよりも柘榴が折れてしまったのが
なによりもかなしいと
その木は根元から大きな嵐と抱き合って
そのまま死んでいた
その男は柘榴を燃やし、
その灰を柩にした
そして黄昏の光りのような女と暮らし、
やがて死を迎えた
その妻はいった、
あなたが死ぬよりも
あなたのかつての息子が死んだのがかなしいと
かれは咽に林檎をつまらせて死んだ
かれはいまも墓に葬られず、
埃をかむった闇のなかで眠る
きらきら
すべての訓示をやぶり棄てたときから、
そうしてふたたび滝のおとが失せた
あまりにねぐるしい、
にんげんの家で
だれもが耳を
欹てる
たったひとりぼくは廚で麺麭を焼いてる
だれかが庭で黄葉を踏む
たしかに滝は枯れてしまったんだ。
*
斑鳩の空にいまだ、
たどり着いてないというのに
もうきみは眠くなって、
ぼくにだだをいう
それでも、
決してはなれないでいる
それはやさしさのためでなく、
最愛を滅ぼすため、
見なよ、
柘榴の木が燃えてる。
*
鶺鴒の森は焼かれ、
打たれるがまま、
欲しいままにされて、
うつくしく濁る、
水よ、
水よ、
石の柩にきみは跨がって、
黄金水を放てばいい
報いをくれてやれ、
塔の主に、
城の主たちに、
かれらは遁れ、けものがれ、
われらは両目をつりあげて、
やがて狐となりました。
*
きらきらっ、
光りがまぶしいね
きらきら、
光りがきれいだね
きらきらっ、
みんなと一緒だから怖くないって、
きらきら、
ないにも見えない、もう聞えない
きらきらっ、
きみはもういない
きらきら、
斑鳩の果て、
雲路に、
毒が、
混ざっております、
あれが鰯雲です。
最新情報
選出作品
作品 - 20181101_615_10860p
- [佳] ざくろ/きらきら - 中田満帆 (2018-11)
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ざくろ/きらきら
中田満帆