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作品 - 20181008_314_10795p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


涙の味

  




かぐわしい密室で
所狭しと膨らんだ薔薇の周りを
靴のように脱いだはずの裸足が
忍び足で歩き回る

その隣室では
追憶する彫像が頭を垂れながら
負傷した額から新鮮な血を流しながら
机の上に置かれた蜜柑を前に
か弱く目を閉じている

果てしなく続く青空のように
墓碑銘のない墓碑が無数に並ぶ
光の中に消え果てた男達は
深夜の明かりよりも散りばめられていた

外側から窓を開けると、部屋の中は外の風景だった
不眠症の鳥が空になったのか、空が不眠症の鳥になったのか
濡れないように開いた傘の上で
コップグラスが水を湛えている

一隻の赤い帆の船が
やがてピアノの脇腹を渡っていく
水没した婚約指輪の中で
ピアノの蓋に手を添える女は
頭からお腹まで青空に塗り潰されていく
ピアノの椅子に腰掛ける女性の魚さえ
お腹から尾びれまで人間の体になっていく

耳と口のない樹木の顔に貼り付いた
木製のドアを開けると
夜行性の増殖する枝葉の前で
一本の蝋燭が三日月を支えていた

ああ
その光に照らされながら
女が鳥を食べているのか、男が鳥を食べているのか
存在さえしない彼岸で
地面に生えた鳥の肉体は
毛虫に食べられる植物の涙の味を秘めている

文学極道

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