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作品 - 20180915_348_10748p

  • [優]  夜[2004] - 中田満帆  (2018-09)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


夜[2004]

  中田満帆





 おもてに広がっていく夜
 たった二つ三つ文字盤を擦っただけで
 もう、そとは黒
 ひとはマッチをたずさえ
 夜というものにそなえる
 黒のなかに姿が消えてしまわないよう
 ロウソクに火を点し
 音が消えてしまわないように
 楽隊を呼ぶ
 そうしてみなは呼ぶのだけれど
 おれの楽隊は皿の料理から生まれ
 食卓のなかでいつもゆがんでいる
 ほら、
 フォークを掴んだら
 演奏が始まった
 この音がそちらにも聞えるだろう
 この姿が近眼のあなたにもおわかりだろう
 もっと近づいて
 よくごらんください
 あいつのトロンボーンの舳先へ
 ゆっくりと流れていくやつの唾液を
 あいつのギターの弦から染み出した肉汁を
 ドラムのヘッドで踊るコンソメスープと具の玉葱を
 もっと近づいて
 よくごらんなさい
 お気に召しましたか
 この気持ちのよい演奏を
 しかし食べ終わると同時に崩れてしまうのです
 もっと近づいてよくごらんなさい
 トランペットとトロンボーンが
 仲良くハンバーグに融けましたね
 サックスはライスをギターに吐きかけて消え
 ベースは声をあげてドレッシングの壜に倒れた
 最期にピアノが余韻を残しながら
 残ったスープに沈んでいく
 おれの楽隊はいつもこうして崩れてしまう
 もはやロウソクの火も消え
 黒に染まりながら
 悲しみに堪えきれなくなったおれは
 やけになって皿に顔をうずめる
 そして心にもないことをいうのだ
 やめてくれという胃のなかの悲鳴を聴きながら
 おれのからだは
 半分、黒
 ああ、もうすっかり不良少女になってしまったYよ
 染まりきらないうちに結婚してくれ
 いま、おまえが欲しいのだ
 おれの楽隊は消えて
 もうなにも残らない
 ただ夜があるばかりで
 もうおれもいない


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