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作品 - 20180912_271_10740p

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Wheel of F F F FFFF For tune

  ゼンメツ

朝食ではチョコワの瞳がそらばかりを見つめていた。交わることのない視線に少しづつ意思の滲むミルク。それを飲み込む僕をまたべつのチョコワが覆っている。触れるずっと前から、少しづつふやけていく。なのにこの世界が四角いと知ったのはもういつの話になるだろうか、幾重にも突っ伏したパンのうえにまた新しいパンの名前を重ねる。ヤマザキモーニングスター。陰鬱な鈍色の空に鉄でできた星々が飛んでいく。朝からそんなものにすがりたくはなかった。胸近くの内ポケットで車のキーがガチャガチャいっている。もう行かないとならない。旅をしているんだ、イスからまた別のイスまでを。祈っているんだ、いつかこの道から外れますようにだなんて。終わってんだ、そんなのは。夢の中では毎日のようにどこまでも透明になり切らない地平線を走り続けていて、それがどこからか滲みはじめているということに僕は既に気付いていて。おまえは知っているか。スーパーマーケットの二階には救いがあるらしい。外国では誰もがそこへ逃げ込んでいた。そいつらは大抵死ぬのだけれど。

いくつもの世界が棚でひっくり返っている。けっきょく僕に必要なのはどこの誰からも忘れられることのない本物の木でできた割りばしだった。ひとから手渡されるプラスティックスプーンはとても良くない色をしている。誰もがそいつでミルクを掬う。スーパーマーケットにすら辿り着かなかったやつらが、コーンフレークスのようにひび割れた身を重ね合って、黄味掛かったプラスティックを口に含み、そしてふっかつのじゅもんを吐き捨てている。「みんな救われたがりなんだ」ヴァンガードは根拠のない自信に満ち、いつだってヘラヘラしていた。こんなヤツらとはもう付き合っていられない。いますぐにでも車に乗ってくれ。知らないうちに歪みきったフロントバンパーの空力が、きっと誰をも背中のそらに散らしていく。出発なんだ。名前のついた黒人も探そう。そいつはきっとやってくれる。いつだってそういうものを観てきた。この眼で何度も。だから信じてくれ。そいつも車に乗せるんだ。乗り換えたとしても。僕は英語なんてできない。それでもまた乗せる。そう決めたんだ。心配しなくていい、会話に詰まったときは昔買ったミニテトリスだってダッシュボードの下にまだあるんだ。「ここにはなんでもあった、だが欲しいものなんて何一つとしてなかった」とダイソーが呟く。僕もそう思う。死んだパルコも同じことを言っていた。あいつのはただのうわごとだったか。まあどっちだって変わらないさ。いいからさっさと車に乗ってくれ。元々ビル風だったやつが街を縫い尽くしていく。今の僕たちにはまだ僕たちを覆う頑丈な屋根が必要だった。だからコンバーチブルはダメだ。空に星が見えるけどそこがダメなんだ。ハーレーも絶対にダメだ。早く死ぬからダメだ。原付のモンキーなんてもってのほかだ。そんなところだけを切り取られたくはないから。行こう。もう星なんか探さないでくれ、カーブを曲がれなくなる。僕たちはただの一瞬でこの街を抜け、最初に見えたガードレールを突き抜けていく。おまえはそのあいだジッと目をつぶって、何も心配しなくていい。免許は持ってる。だから心配ないんだ。もう黙れ、うるさい。マニュアルだ。

目につく世界の外殻に何度だって突っ込んで、どこまでも薄いミルク色を轢き延ばしていく。この車には僕とおまえと頼れる黒人の男と、結局ついてきたダイソーが乗っている。互いに何を思っているのかなんて、結局わかりもしないまま。ラジオなんてとっくに拾えない。黙って、風を起こし、遠くへ、延ばし続けていく。おもむろに黒人の男が下を向く。けたたましいテトリスの電子音が鳴り響く。頼む、もう一度アイツに名前を聞いてくれ。僕にはどうしたって聞き取れなかったんだ。唯一の電子音がいつまでも鳴り止まない。いつまでも。その手のなかで、何もかもが枠にはめられていく。だから頼む。

文学極道

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