三条へ行かなくちゃ 三条堺町のイノダっていう コーヒー屋へね
あの娘に逢いに なに 好きなコーヒーを 少しばかり
(『コーヒーブルース』 高田渡)
屈辱や羞恥を覚えるできごとのあった日には、家に帰ってから、『コーヒーブルース』という歌を聞くことで、それを中和しようとしてきた。
歌い出しの「行かなくちゃ」という言葉に、特別な安心感を感じていた。
『コーヒーブルース』が売れてから、「イノダ」は高田渡のファンにとって、聖地になった。
この歌を聞いていると、カウンターで店の女の子と楽しく話す光景が浮かんでくる。
だが、作者は後に、「あの娘」は店の女の子ではないと語った。
当時付き合っていた彼女との待ち合わせを描いた歌で、「店の商品には手をつけない」と冗談を添えた。
それでもファンやあるいは作者がそう考えていたように、「イノダ」は実在の店ではなかった。
作中では「行かなくちゃ」が繰り返され、結局、最後までその店へ行かなかったから。
「行かなくちゃ」を聞いていると、それが「行く」ことにも「行かない」ことにも
侵すことのできない領域であることに気がつく。
最新情報
選出作品
作品 - 20180731_104_10629p
- [佳] 未然 - 霜田明 (2018-07)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
未然
霜田明