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作品 - 20180608_400_10510p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


砂の唇

  鷹枕可

  うつくしかった庭は跡形もないわ
 あなたが足許も覚束ない、幼時のころからあった庭には

朽ちた鞦韆が炎のように揺れているだけだ
綺麗に磨かれた軍事兵器や、航空工学には飛べない青空、壜底の青い凧が、
 鈍い木々を縫う花の毒の根が
わたしの心臓を納めた塵の骨壺が
さしたる所以もなく
忘れられる、そのためにも

――死蛾の翼を鏤刻する額縁工房、その職人達へ届けられた――、
   あの手紙は本当は何所へ宛てられたものだったのか
   きっと聞いて来てくれよ、

薔薇から紙粉塵へ
死の蜜から林檎樹の棘鉤へ
旱魃に随って誂えられた水道管を繋ぎ展ばしては
幌の幽霊、その確かな時計の様に
恩寵に取り縋らせて欲しいと願う総ての血縁どもよ、
   聞こえているか
今、最後の電話線が切り離された
 都市が落ちた時、雷の花束は落ち、
  割鏡の様に
苦難に満ち満ちた糧、
      その種蒔時を蔑していた私達の醜さに愕くが善い、いつものように

   たちかえればわたしはいつもだれかのかがみで
 わたしはわたしを、まるで偶像のようにみたくない窒息に、さいなみつづけていたかもしれないし
  機械に錆びる海の脂をみとがめつづけていたかもしれない
    わかることは、わたしはわたしの分身のようには飛びつづけられないということと、
たったひとつの結像起源がわたしではなかったことを、こわばり否んだこと、
そう、
死ななければいきていけなかったから、

最後のベルが処刑時刻を劈き、時計塔を跨ぐ狂院の建築家は
書見台から見える純銅錘の磔像に隠された秘密の覗絵たる箱庭を開くことなく

文学極道

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