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作品 - 20180228_098_10272p

  • [佳]  異邦人 - 尾田和彦  (2018-02)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


異邦人

  尾田和彦

「職人とブタ」2006年4月
http://bungoku.jp/ebbs/log.cgi?file=35;uniqid=20060406_866_1142p#20060406_866_1142p
「センチュリーハイアットホテルとブタのブギ」2006年9月
http://bungoku.jp/ebbs/log.cgi?file=57;uniqid=20060923_719_1565p#20060923_719_1565p
「あの日のブタと」2008年12月
http://bungoku.jp/ebbs/log.cgi?file=155;uniqid=20081206_060_3198p#20081206_060_3198p
「マチ子とブタと病室で」2015年12月
http://bungoku.jp/ebbs/log.cgi?file=448;uniqid=20151116_626_8428p#20151116_626_8428p

「Tシャツ」2008年8月
http://bungoku.jp/ebbs/log.cgi?file=143;uniqid=20080814_869_2959p#20080814_869_2959p
「クマの名前はヘンドリック」2008年10月
http://bungoku.jp/ebbs/log.cgi?file=148;uniqid=20081022_078_3096p#20081022_078_3096p



母さんが死んだ
2月の晴れた日
午後3時
牧場で除角作業をしているぼくのスマートフォンに着信がはいった
クリッパーで角を切ると
月齢3か月の仔牛の角から血が溢れた
焼きゴテで止血する
暴れる仔牛

「母さんが死んだんや」

父さんからの電話

「ああそう」

とぼくは言った
今から大阪行きの飛行機のチケットが取れるだろうか
ぎりぎりお通夜に間に合うかもしれない
会社の事務所に電話した
2日間の休暇願いを出した

実家は伊丹空港から大阪モノレールに乗り
阪急電鉄に乗り換え
1時間半の嵐山にある

今からしたくすれば17時の便の
宮崎空港発がとれるだろう
そうすれば19時のお通夜に間に合う
喪主は父さんが
つとめるだろう
翌日のお葬式と火葬が終われば
また飛行機で帰ればいい

事務所に電話すると
電報を打ってくれるといったSさんに
いいんです
内輪ですませますので
そういうとぼくは車にのって牧場を出た
よく晴れた
2月の日だった

宮崎空港に
17時前についた
足早に帰路につくだろう人々の群れ
部活と思わしき大学生たちが大声で
はしゃぎ
走りまわる

この飛行機は
どこへ向かうのだろうか?
とぼくは思った
夕暮れになり
指先が冷たくなる冷え込みが
ぼくのポケットの中にも差し込んだ

どこへいくんだい?
大きなクマが
話しかけてきた
ヘンドリックだ
やあ
久しぶりだね
君が落ち込んでると
出てくる仕組みなのさ
ヘンドリックは鼻くそを穿りながらいった

お前の母さん死んだんだってな
ヘンドリックは言った
パラソルをさしたブタがぼくの前を通りかかった
ハッとした
あのブタだ
マチ子と屠った
あのブタだ
おいブタ君!
ぼくはヘンドリックを押しのけ
ブタの姿を追った
空港は混んでいた
人込みの中に
ブタの後ろ姿が消えていった

知り合いか?
ヘンドリックが言った

知り合いじゃい
殺したんだよ
ぼくはヘンドリックに言った

おいおい
穏やかじゃないね
お前といて
穏やかだった日があるか?
それもそうだ
日焼けしたヘンドリックの横顔が
少し歪んだような気がした
太平洋に沈んでいく太陽
ぼくはRTJという
聞いたこともない飛行機に乗った
随分乗ってないうちに
飛行機の会社も変わったもんだ

客室乗務員が
ぼくに話しかけてきた
大丈夫ですか?
はい?
ぼくは訊き直した
具合悪そうなので
そういって一枚の紙きれを
彼女はぼくに渡した
眠かった
その紙きれを上着の胸ポケットに中身も見ずに
仕舞いこむと
ぼくは眠りに落ちた

眼を覚ますと
飛行機は雲の上を飛んでいた
さっきの彼女が
ぼくの目を見て笑った

おはようございます
悪戯っぽく
そういっているような気がした

文学極道

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