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作品 - 20180111_669_10167p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


カケル

  

どんなに注意していても
少しずつ失われていく
そんなものだと猫が呟く
それでも諦めきれずに
飛び散った破片を探して
白い夜道に這いつくばる
そうして気がついてみれば
コーヒーは冷めているのだ
過去の自分に警告するために
黒電話のダイヤルを回すけれど
数字の配列が次々に変わってしまい
いつまでたっても通じないのだ

 ベテルギウスの爆発を見られたら
 君にプロポーズするつもりだったんだ

すっかり老いぼれてしまった僕が
今日も縁側で独り言を繰り返す
背後で幼い僕がそれを見ている
最初から勝ち目などなかった
わかっていたのにそれを選んだのは
言い訳がほしかったからだろう
すでに彼女は影絵になっていて
古びた額縁に閉じ込められたまま
今も廃校の壁に飾られている

 あなたのことをずっと待っていました
 白い夜道で星々を見上げながら

遠い海からの伝言を預かった風が
庭の雑草を波のリズムで揺らすと
居間の古時計が鳴りはじめた
(もう四十二時になったようだ)
幼い僕は老いぼれた僕の後ろで
あかんべぇをしてから庭におりると
自分で「よーい、どん!」と叫んで
夕闇の中へと走り出した
もう何も考えていないから
身体がとても軽く感じる
途中で黒い影にぶつかると
身体の半分がちぎれて飛んだ
それでも僕は構わず走り続ける
誰のため、何ため、どこへ向かって
そんなどうでも良いことを
すべて捨ててしまったから
身体がとても軽く感じる
何もかも空っぽになった僕は
光すら無造作に脱ぎ捨てて
この空っぽの世界を走り続ける

文学極道

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