#目次

最新情報


選出作品

作品 - 20180109_626_10162p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


マジックミラー号とわたし

  芦野 夕狩

男性は吃音で
掌の上で転がされた睾丸が
えぐえぐとどもっている
あけ放たれた空間と私
みらいの中で
花という花が死んでいる
美しいひとたちが
美しい装いで
白鳥の湖を踊りながら
軽やかに通り過ぎていく
粘膜が 
通り過ぎていく

マジックミラー号なので
星空がよく見えるよ
お母さん
宇宙は
ほしほしの粘膜なのよ
と言っていましたね
今ならなんとなく
その意味が分かるような気がします
男性の宇宙が
吃音でえぐえぐと
どもりはじめて
夜が明け
青汁みたいに
絞られていく

ほら
こんなにも陳列されていますよ
という具合に
私たちは愛を囁く
男性の脇の下から
ファブリーズの香りがして
その殺菌能力を疑う
輪廻転生を疑う
下半身の異文化交流を疑う
けれどマジックミラー号なので
すべては白日の下に晒されており
きつね色にこんがり焼かれた
わたしたちの身体は
宇宙を疑っている
みらいを疑っている 

エルニーニョ現象で死んだ祖母が
金色に光りながら
世界を染め果てようとしている
野菜を切っていた途中で
金色になってしまったから
切りかけのキャベツが
しなびているんだ
敗走する
わたしたちの太陽は
誰にもこびへつらわないところで輝き
束の間
ほしほしの粘膜を果てしなく薄くしていく
きれいだった人
きれいじゃなかった人
どちらでもなかった人

敗走する
わたしたちは
わたしたち史上最弱で
どこにも移ろわなかった魂のように
いま男性の陰茎から精液が漏れ出でる

文学極道

Copyright © BUNGAKU GOKUDOU. All rights reserved.