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作品 - 20171228_302_10129p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


How high the moon tonight.

  元ヤマサキ深ふゆ

今日も煌々と灯るプラットフォーム
実家なら帰れる 駅 停車
2本 3本 見送って

淡々と潜る 改札まで
あの頃から使っているパスケースをかざして
開かれるゲート
それにも慣れ切った

建物だらけで遮られる
そうじゃなくても見付からない
私の帰る場所

街路樹から落ちる舗道の枯葉
なまえがきっとあるはずなのに

冬には冬の詩しか書けない
無能が私ならば それでもいい

見えない きっと 満月は
建物だけのせいじゃない

行きかう雑踏
何もかもから逃げ出したくて
愛しているかも分からなかった
煙草の香りに抱(いだ)かれて
ヘッドライトの波 見送っていた
渋谷
街頭モニター
スクランブル交差点
午後9時半

変わらないように見える景色も確かに変わって

私だけが浚われていく

あの頃は地上にそびえていた駅舎
好きだった風景
今は深く深い地下の果て
明るく輝く月光なんか
届くはずも
なくて

車窓に映る 赤みを帯びた私の顔
疲れ果てていたあの頃とも違って
ほんの少し 吐(つ)き続けてきた嘘にも慣れ切って

大人なんかじゃない癖に
精一杯
ヒールを履いてフルメイク
定刻通りにならない満員電車
毎日 同じ時間に揺られていく
乗車率130%
時にまさぐられるスカートの中
抗わず荒げず何事もなく
定刻通りに切るタイムカード
満面の笑みを浮かべた
「おはようございます」
その生活に麻痺し切る事が大人になる事だと信じていた
あの頃の私の一生懸命すら酷く愛しく思える
今宵
3年目が明けたからだろう

明日にはただの私になる

その間際
ほんの少しだけの

望月


届かない


私じゃない

私じゃないと
刻み込む歩幅に
鳴り響かせた靴音は置き去りで

危うく
乗り過ごすところだった下り最終列車
誰かの不幸に心の中で呟く感謝に気付く

間に合えば。

間に合ったから、それでいい

最寄り駅
唯一開いているコンビニで
少しだけ良いモンブランだけ
買い込んで帰る


じゃない
私が
わたしになる
好きではない わたしの部屋へ

月明かりよりも眩しい店内
お釣りを揃えて受け取って
一歩





嘘だ






月は、ちゃんと そこにいる





瑞祥




反射されただけの光に 
わたしだけが照らし出されていく

浮き上がっていく無能

今宵の月は
 こんなにも

文学極道

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