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作品 - 20171201_704_10064p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


成人儀式

  朝顔

母方の叔母が、喪服を着た私にバナナチップ
スばかりたらふく食べていないで、紫色のア
イシャドウをもっと濃く目元に塗りなさいと
いきなり言った。それから、焼き場から呑み
屋にいざなって、鯨のたけりが食べられない
のかと嘲るように哂った。私が耐えられなく
なって泣き出すと、やさしく頭をハグしてく
れた。

桜が満開だったあくる日、しくしくとまだ啜
り泣いている私と叔母は花見に出掛けた。人
の群れはどこも哀しく蠢いていた。ふと気づ
くと、叔母は小さくなって、わたしのさえず
りにもうすべり込んでいた。あっと声をあげ
る間も無く、彼女の血液と私の血液は交換さ
れた。私はそれまでどこかでまだ怖れを抱え
た頑な少年だったのだ。

屋台では明石焼きを焼く音がじゅうじゅうし
ていた。私は残酷に小腹がすいたと懐の貧し
い叔母に告げた。お勘定を待って小さくなっ
て震えている私に、叔母はたまごと出汁とタ
コの味はどうだったかいと訊ねた。美味しか
ったと答えると彼女は満足そうに微笑んで、
ふらりと沼の方角へ消えていった。明石焼き
はほんのりと舌の上できいろく甘かった。

その晩、わたしは初めて唇に深紅を乗せた。
窓の外の梟の声は、私をやさしく包むようで
ある。フローリングには脱ぎ捨てた黒い服が
無造作に散らばっている。しとしとと降る四
月の雨は、私の乳房をつよく柔らかく噛むの
であった。

文学極道

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